【大番外】木が紋(こがもん)
夕部(ゆんべ)亥の刻半ごろ(深夜11時)時だちやん(時代劇ちゃんねる)で木が紋(こがもん。木枯らし紋次郎)をやつておりやした。これがどんでん返しだらけで観てるこちちをぐいぐいひぱつていきやがる。股旅の紋次郎が街道歩いてると、首に廿五両の大金のかゝつた凶状持ちの渡世人が四五人の地回りと立ち回りをしてる。その横をれいによつて紋次郎がしらんぷりでとおりすぎる。お定まりの竹の長楊枝がお笑いヨ。切りあいを恐る恐る遠巻きにした人の輪の中に猿回しがゐる。渡世人は地回りを切り伏せて紋次郎に追いつく。猿回しもくつついてくる。紋次郎は連れをつくらねへと言ふ。三人が連れであるようなないような間合いをとりながら脇街道を往く。渡場で子分をお供にした小仏の親分の女と同船になる。男好きのしそうなその女は凶状持ちと顔見知りで、そちらのお方ァ紋次郎さんでト声をかけてくる。やがて山道。女は子分になにごとか含ませ何処かへ走らせる。峠へかゝる途中でばらばらと土地のやくざ者が飛び出し凶状持ちを襲う。首狙いだ。女と猿回しは物影へ逃げる。切り合いの脇で紋次郎は切れた草鞋をゆうゆうと履き替えると跡(後)も見ずに先に往く。凶状持ちはまたもや敵を切り伏せ紋次郎に追いつく。
野宿の夜中も凶状持ちを狙つて敵が忍びよる。それを凶状持ちは一撃で斃す。幾夜かの野宿の場で凶状持ちは紋次郎にからむ。あの峠道で幾足りものやくざに囲まれたときなんで助太刀しなかつたト。紋次郎いわく、あつしにはかゝわりのなへこッてごぜへやす。なにィ助るのが仁義ぢやァねへのか。あつしァおめへさんにやァ義理はござんせん。一触即発。そこを猿回しが割つて入り場をおさめる。堅気のお人の関わることぢやァねへが此処はあつしが引きやすがこの決着はかならずつけさせてもらうぜト凶状持ちはしぶしぶ抜きかけた長脇差(ながどす)を引く。この凶状持ちは府中に女房と子を残してゐる。女の亭主の小仏の親分は心の臓で床に就いてゐる。
お咄書いた戯作者がしたゝかもんだねへ。よく推理物なんかに大詰目でどんでんがえしなんてのがありやすが、このお咄ァ咄の道筋々々ぜんぶどんでんげえしヨ。見事なもんヨ。見せたかつたねえ。咄ァちくいち裏ァあきやがる。思つてもゐねへ方へと転がつて往きやがる。そいで〆ァなんてッたッてこの戯作者のお名ヨ。新田郡ッてんだからしと(人)ォ喰つてるゼ。コウそいつァ木枯らし紋次郎の生まれ在所ぢやァありやせんかい。上州にったごおりッてネ。
最近のコメント