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2019年5月 5日 (日)

江戸色町一寸話(ゑどいろまちいつすんばなし) 其の六 舟まんじゆうの巻き

江戸色町一寸話(ゑどいろまちいつすんばなし)  其の六   㐂三二

  舟まんじゆうの巻

 

深川の河岸をいく左官吉次ゑ舟頭「おちよゝゥおちよゝゥそこな親方おやかた 吉「コウおれのことか親方たァおだてるぜ一本立ちだが親方になるにやァまだちと間があらァな 舟「さいでございやす親方さんまあまあそふおつしやらず鳥渡(ちよいと)お遊びなさいやし 吉「お千代か 舟「ヘイぽちやぽちやでございやす 吉「コウぽちやぽちやのお千代か 舟「ヘイヘイ左様でたつたいま湯ゥからもどつたばかりの口あけでございます鳥渡(ちよいと)お遊びなさいやし 吉「そふ云やァ向こうの河岸に湯舟(銭湯舟)がゐたなゝんとしてもそいつァありがた山〆(しめ)このうさぎだ遊ばせてもらふか 舟「ありがたふございやすではこちらへお足元がお悪るふございやすお手をおとりいたしやしよふ 吉次艫(とも)から屋根舟ゑのる胴間の暗がりから十六夜の月あかりの下ゑ白い手にゆゥとで吉次の手ェ引く 吉「コウこれハ間違ひねえぽつてりした手ぽちやぽちやのお千代だ 千「そうだよおいでねえな親方さん 吉「暗くてお千代観音のご尊顔が拝めねえ 千「アレ観音たァうれしいねえお見通しだよあたいは菩薩サみんなぽちやぽちや菩薩と贔屓にしておくれだよところで親方さんは初会だねえ 吉「コウお千代花魁(おいらん)みてえなこと云ふねえ吉原の花魁は初会のお客にやァ目もくれねえ口もきかねえ手もふれさせねえッて聞くゼ 千「ホヽヽあつちハそんなお高くとまつて振つたりやァいたしやせんさなァお舟のお千代だよ 吉「ありがてえそふこなくッちやいけねえ道理だこの胴間一間で振りよふもねえやな吉原なんてあつしら法被(はつぴ)もんにや格式が高くッていけねえヤ 舟「親方ァ舟ェだしやすよござんすね 吉「コウ舟頭さんたのむゼ沖かひ 舟「エヘヘ一切(ひときり)でかんべんしておくんなさいやし大川(隅田川)ゑでて中州ゥ一回りいたしやす 吉「まァけふは初会だからナたのむァ 千「親方さんこんやァご縁に馴染になつていたゞけりやなにも一切でなくてもお好きなとこィせんど(舟頭)さんもだしてくれやすヨそんなことよりこつちィおよんなさいやしナ 吉「ヘヽほんにおめえはぽちやぽちやだねえ 千「あれそんなとこさえわつたらくすぐつたいやねえ親方ァおかみさんをお持でございやしよう 吉「コウ野暮なこと訊くねえ嬶(かかあ)ゐたらこんなとこくッけえ 千「こんなとこたァごあいさつだねえ 吉「オウすまねえ詞(ことば)のはずみヨ悪気ァねへやナかんべんしねえヤ詫(わび)に裏ァけえすゼ 千「アレうれしいねえ親方あつちは惚れやした 吉「ケッ調子のいゝやろうだゼ 舟頭の櫓(ろ)のきしみ揺れる舟遠く水面(みなも)をわたつてくる石町(こくちよう)の時の鐘の音 舟がふたゝび深川の河岸ゑもどつてくると身支度をとゝのえ胴間からはいでた吉次舟頭に「コウいくらでえ 舟「ヘイありがたふございやす一切ですンで三十二文ちようだいゝたしやす 吉次腹掛から波銭(四文)をじやらりとすくいだしひいふうみいよういつむうなゝやあト八枚を舟頭ゑわたし一枚を胴間のお千代ゑ「ありがとよト投げひらりと岸ィ跳びあがつてすたすたと夜の闇ィ去つていく。【初出◉ 平成31年穀雨号)

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