無料ブログはココログ

« 江戸色町一寸話(ゑどいろまちいつすんばなし) 其のー 喜三二 | トップページ | 江戸色町一寸話(ゑどいろまちいつすんばなし)  其の三  㐂三二 »

2018年5月 6日 (日)

江戸色町一寸話(ゑどいろまちいっすんばなし) 其の二 喜三二

江戸色町一寸話(ゑどいろまちいっすんばなし) 其の二 喜三二

軽子(かるこ)吉蔵、汗ェふきふき神楽坂ァ突ッ切り赤城神社の御灯明をわきにみて路地ゑへえる空にやァまだ明るさが残るが路地は宵の闇に沈んでゐてその暗さン中に屋号もなんも書かれてゐねえ軒行灯がぽつんと灯つてゐる。岡場所お約束の柿渋染の赤土色の暖簾(のうれん)威勢よくはねあげ、吉「コウおひさァ空いてッけえ」長火鉢の向こうで黒漆の羅宇(らう)喜世留(きせる)で多葉粉(たばこ)のんでた女将「オヤおいでなさいやし吉蔵さまは運がようござんすヨおひさァハいまァ湯ゥからもどつたとこでございますよ」身をよじり奥の間に「おひさァ吉さまがお見えだよ」女郎おひさ「あらァ吉ッつあん、来てくれたンだ」吉「オウヨォ元気ケ」おひ「待つてたのよゥ。季節かわッちゃうよ」吉「よくいふゼてめえハ」女将に一本たのんで二人で階段ォ上がる。おひ「吉ッつあんなんかけふは様子がいゝヨいゝことあッたンかい」吉「えへゝわかるかひ。お祝儀もらつてヨ。」おひ「アレいゝねえ」吉「コウおひさ、しぼつてきてくんねえ」ト首にかけてた藍がさめた手ぬぐいをわたす。おひ「オヤ、どうしたえ」「すつかり汗ヨ。そろそろ暮六ツけふァしめえだなとおもつてたら神楽河岸ィ舟へつてヨ。箪笥の荷ヨ。そいつゥ棹とおして相棒の梅公とかついでそこの箪笥町のお武家ンとこまで運んでナ」おひ「オヤお武家ンちゑお引越しかひ」吉「なァに言ひやがるあそこのお武家ァ代々お納戸役だからァ箪笥の手直しはお家芸ヨ」おひ「へえ、そいで箪笥の職人さんになつたの」吉「ばか野郎れつきとしたお幕臣ヨ。箪笥の直しァお内職ヨ」おひ「アレまあ、お幕臣がお内職かひ。デお稼ぎは公方様のお納所(なつしよ)へお納めするんかねえ」吉「おひさおめえはつくづく馬鹿だねえ。公方様がお納所やるか」おひ「アレ気前がいゝねえ」下から女将「おひさァ燗がついたヨ」おひ「鳥渡(ちよいと)まつてゝネ」ト吉蔵の汚れ手拭をもつて降り塗りのはげた盆に益子の徳利と杯それに皿をのせてもどる。おひ「サア吉ッつあん」ト徳利をさしだす。吉「ありがてえ。うどの酢味噌和えぢやァねえかひ」おひ「そうさネ。後の月にきてくれたときそろそろうどの時季だなァッて言つてたらふ。」吉「おめえおぼえてゝくれたンけ」おひ「そりやァおぼえてるよゥ吉ッつあんのことだもん。けさァおかあさんが振売の八百屋がうどォもつてきたッてたンでネあつちのおごりだよ。」吉「こいつァありがた山、さつそくごちになるぜサおめえもいっぺえやんねえ」おひ「ありがと」吉「おめえいくつになつた」おひ「やだようきかねえでおくれヨもふ大年増だよう」吉「廿七か」おひ「春がきたら年が明けンのよ」吉「そうかァ。つれえなァ。どうすんでえ」おひ「やなこと思ひださせないでおくれよ。どつか住みかえしなきやァ」吉「引いてくれるやふなお人ァゐねのけェ。おいらに甲斐性がありやァなァ」おひ「いゝンだよ吉ッつあん住みかえたらまた馴染みになつておくれよあつちァおまさん好きなんだよう」吉「わかつてるゼすまねえ。おひさおめえもくにゝやァけえれねえしナ」おひ「そふだよねえ穀つぶしだからねえ。兄さァ娵(よめ)とつて田ンぼついでッからけえッたらとも倒れサ」吉「おいらもおンなじヨ江戸にくるやつァみんなくにゝやァゐられねえ穀つぶしだもンなァ」おひ「やだやだせつかくきてくれたンに湿ッぽいヨ。さあ呑んでサゆつくりしておくれヨ」おひさは吉蔵が脱ぎすてた袢纏を衣紋掛にかけ袖と襟を手のひらでスッとなで下しゝわをとる。路地をぬけていく駒下駄の音。遠くで夜五ツの時の鐘ゴウンゴウン。

« 江戸色町一寸話(ゑどいろまちいつすんばなし) 其のー 喜三二 | トップページ | 江戸色町一寸話(ゑどいろまちいつすんばなし)  其の三  㐂三二 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 江戸色町一寸話(ゑどいろまちいっすんばなし) 其の二 喜三二:

« 江戸色町一寸話(ゑどいろまちいつすんばなし) 其のー 喜三二 | トップページ | 江戸色町一寸話(ゑどいろまちいつすんばなし)  其の三  㐂三二 »

最近のトラックバック

2020年10月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31