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2013年8月15日 (木)

天川宵闇情(あまのがわよいのはからひ)

 七夕ッてえと落語の平林思ひだしやして。七夕ッて書ひてなんでタナバタッて読ませるンですかねえ。それが妙ヨ。平林の落語ァ無筆が往き先のお宅の名ァ紙に書ひてもらつて使ひにでかけるンだが途中で読み方忘れちまふ。デ通りすがりのお人に尋ねッとこりやァタイラバヤシだッて言ふ。また他の人にきくと、ヒラリンだッてンだ。つぎつぎきくとイチハチジュウのモクモクだとかヒトツとヤッツでトッキッキなンて読むのもでてきてわけがわかンなくなつッちまふ。七夕の方はもとは棚機でござりやしようナ。機織の機械に床に座つて織るのや腰掛けて織るのだとかございやすものなァ。その一ツの棚機。それを使つて機を織るのは女の仕事だつたンで棚機姫。天の川をはさんで対岸にゐる星は牽牛。この話ァお隣の中国の故事だそうですナ。さしずめ基督教国なら羊飼ッてェとこでございやしよう。隣なんで牛飼ひのおのこッて仕儀になるンでやしよう。言ふまでもねえが棚機姫と牛飼ひのおのこはたがひにほの字ッてえ寸法ヨ。遣手婆ぢやァねえが天の川がとうとうト流れてゝ邪魔ァしくさる。渡船もねえンでたがいに遠く秋波だけおくりあつて辛の抱でゐたらある晩いじわる遣手のお米婆の天の川がかき消すやふに消えたッてンだ。やれうれしやおはたやそう言ふおまえは牛さんかト手に手をとつてどこへ道行したか知らねえがはれて添えた日が七月七日。西暦の7月7日ぢやァござんせんゼ。農暦でございやしよう。日本ぢやァそれェ取り入れて明治のはなまでつかつてきた太陰太陽暦でやす。なんで意地の悪ひ天の川がかき消えたかッてえと丁度その夜の月の光の加減であれだけ光つてた天の川もさすがに粋なはからいの月光にやァかなわず姿ァ消えたンだそうでやすナ。そんなわけだから七夕は七のぞろ目ならッてンで西暦の7月7日に祝つたッて天の川が消えるわけぢやァねえ。早とちりッてことですナ。江戸ッころァ七月七日ッてえば八百八町がいつせいに井戸替ッて言つてさらッたそうですナ。井戸と呼びやすが江戸はかの倫敦(ロンドン)も巴里(パリ)も上水道のねえときにご府内の地中に網の目のやふに木樋を通し飲み水を流しておりやしたからねえ。そいでところどころに井戸の仕掛につくつてあつた。水道の水で初湯をつかつたッてェのが江戸ッ子の自慢でございやしたナ。そのご自慢の水道の井戸の水をみんなかいぼッてだし掃除するッてのは天の川が消える七月七日にちなんだのかもしれやせんナ。
 翌ンちは上弦の月。天の情けの余韻をひいた粋な宵でやしようなァ。一夜遅れの織姫牽牛だよなんて手に手をとつてるのもおりやしよう。月と言やァこの文月は江戸ッ子にとつちやァでえじな夜がありやす。廿六日の月。廿六夜待ち、天窓(あたま)ァ端折つて六夜待ち。月の出を待つて拝むと阿弥陀仏と観音、勢至の三尊の弥陀の影向(ようごう)があらわれるッてンで品川だの築地の海寄り深川洲崎湯島天神九段坂日暮里諏訪社辺や目黒不動境内に群衆して宴を張つてさわいでいたそうでやすから江戸ッ子の信心なんて名目でやすナ。月の出待ちは正月にもありやしたがそつちは寒ひンで立ち消えになつたそふでやすからネ。

(初出「カランドリエ」平成25年8月上弦の月号)

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コメント

兄さん
お暑うござんす
なんてえ夏なんだろ!ちょいと外へでたらたちまち日干しになっちまいそうだねえ
何はともあれ、お元気そうでなによりです。
七夕は是非とも旧暦でやって欲しいものですよ。
上弦の月といえば、昨夜のお月さん、良かったですねえ。昼間はこんなに暑いのに、夜になると秋の気配がそよいできます。もう少しの辛抱ですね。

竜丸姐さん、暑さにかまけてごぶさたしちまいやしてねえ。お元気でしたかい。姐さんの日干しなンて図になりやせんから用心なすつておくンなせえヨ。近ごろァ電動の車椅子ころがしてなるたけ自分でやるやふにして助ッ人さんのお手もへらしておりやすがなんせ電ころがまがい物なンで走らせるほど腰骨ェ悪くなつていくやふに思ひやさァ。

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