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2013年6月22日 (土)

八百八丁暑気払(おほゑどしよきばらひ)

 夏至になりやしたなァ。6月21日、日本の暦の太陰太陽暦の皐月五月十三日でございやすヨ。夏のほゞ真ン中。いまァ西洋の暦が巾ァきかせておりやすが日本の四季は日本の暦で区分されてンで夏は卯月朔日から水無月の晦日までゞ切がいゝ。これが西暦になりやすと今年の夏は510日から8月6日までッてことでなんとも半端でじれッてえ。季節の境目が分からなくつちまふンでやすナ。

  江戸ッ比(ころ)ッてのは空調のからくりなんてござんせん。さッとあつい湯ゥあびて跡(後)は団扇で涼ッて寸法にきまつておりやしたが、町にやァ涼しささそういろンなあきないが出てきてたよふですナ。
 まず水売り。担いでいけるやふな屋台で屋根を粋な市松にし格子の壁に棚ァしつらえ瀬戸焼の器に紅白の白玉をつみあげその脇にやァ砂糖を山にもつておき、真鍮の水呑をまぶしいほどに磨きあげてならべ、向鉢巻で威勢よくヱひァらひァこィひァらひァこィと客を呼ぶ。たまりやせんぜェ。水やさん一杯おくんなさいなト粋な姐さんも足ィ止めるッて寸法ヨ。ほんのり甘くて冷たく甘露ッてやつサ。
心太(ところてん)の振売(ふりうり)ッてのもありやしたが中に曲突ッてのが一人幕末にゐたそうでして。こりやァ天秤棒の前後(まえうしろ)に縦に細なげえ荷箱をぶるさげておりやす。箱ッたッて板囲ひぢやァ暑ッ苦しいから格子にして風ッとおしよくしてある。その四隅に杉の青葉ァ結はい付けそれに水ゥ打ッてある。馬鹿ぢやァできねえ算段ヨ。これも威勢よく向鉢巻に涼しげな浴衣の裾ォはしよりところてんの曲突きでござァいト大道に呼ばわり客が集まつたとなると、左手に寒天を入れた筒を持ち右手で突棒を握り張つた右ひじの上に皿をのせヤッと掛声もろともところてんを空中高く七八尺も突きあげ右ひじの皿でみごとに受け酢醤油をかけて客に供する。町はもとより武家屋敷の物見の窓下にまで廻り大繁盛したとものゝ本に記されておりやす。
  いまァ冬の飲物になつておりやす甘酒は夏も炎暑の暑気払いに呑まれておりやしたようですナ。これも振売で大道であきないやす。磨きあげた真鍮の釜や鉄釜ヲ荷箱の上に天窓(あたま)ァだして据えこれで町ィ流す。コウ甘酒屋あついかい、ヘイお熱うございやす、そんなら日陰ェ歩きねへッて落語の枕にからかふのがございやす。脇で聞いてたあッたかいやつが俺もからかつてやろふッてんで、あついかい、ヘイ丁度呑みごろで、ぢやァ一杯もらおうッて落ちで。もうひとつ消暑で人気のあつたのが枇杷葉湯(びわようとう)売り。これも振売でやしたがもつぱら橋の上に荷箱をおろしてあきなつてゐたそうでございやす。
(初出「カランドリエ」平成25年夏至号)

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コメント

喜三二の兄さん
お久しゅうござんす。あんまり便りが無いので案じておりました。暑気あたりなんかで寝込んでいなさるのではあるまいかなんて・・・
お江戸の夏も暑うござんしたでしょうね。涼やかな水売りの様子、心太の曲突きなんて初めて聞きました。枇杷葉湯ってのは枇杷葉の煎じたもんでしょうかしらん。漢方にありそうですね。

竜丸姐さん江。
 姐さんはお元気で江戸を闊歩なすつてるご様子で。時おり伺つて感心いたしておりやすヨ。元気でなによりでさァ。めえの週に膝の療治がおわりやしてねえ。歩けるやふにやならねえンだが、お医師の先生はこんなもんだなンてのたまひやして。歳でやすからこんなもんかもしれやせんナ。枇杷葉湯は簡単に煎じられるやふになつたのを近ごろのドラッグストアでちらりと見たやふな気がいたしやすヨ。

喜の字

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