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2012年11月21日 (水)

汐似甲駅天麩羅(しおらしやしんじゆくてんぷら)

 四谷新宿馬糞の中にあやめ咲くとはしおらしやッて都々逸がございやすナ。潮来節のもじりでやすがいまァ四谷新宿は探したつて馬糞なんか落ちゝやァおりやせん。これァ江戸ッ比(ころ)の咄ヨ。五街道を江戸幕府がお決めになつたはなの比(ころ)ァ甲州街道のしよッぱなの駅ァたしか府中でやしたが、江戸の出口の四谷の大木戸からァ鳥渡(ちよいと)遠すぎる。旅のはじめァ足がなじんでおりやせんので近くに一番目の宿場ァおかなきやァ旅人が難儀するってンで高遠藩主内藤さまの下屋敷の一角分けてつくつたンがこゝ。新しい宿駅なンで新宿。はなッ比は内藤新宿とよんでおりやしたし甲州街道の第一の駅なんで甲駅とも言ひやすのサ。南畝(なんぽ)が書いた甲駅新話なんて洒落本がありやすナ。吉原品川なんかで遊び馴れたンが鳥渡鄙びてゝ能(いゝ)なんてンでしようかねえわざわざ足ィのばしたり堀の内のお祖(そ)ッさまの信心にかこつけてひッかゝつたりしたンですナ。そんな田舎びた甲駅もいまぢやァ押しも押されもしねえ副都心だつてえから畏れ入谷。都庁があろうッてえにぎわいヨ。江戸前の汐の香もとゞかねえ甲州街道追分の先、元の越後屋三越の裏手に網八かと思いきや綱八と招聘(かんばん。看板)あげ人に知られた天麩羅屋がありやしてけふはどうした風の吹きまわしか暖簾(のうれん)くゞつって鳥渡昼の腹ァつくつてめえりやしたッてわけヨ。天麩羅とくりや油ァ胡麻だネ。胡麻油ッてのはなんですッてネ。注ぎ足し注ぎ足しで能そふで油がへたらねえッてえからすごいヨ。からッと揚がつたあつあつァ胸にもたれなくッてよござんすなァ。職人さんがじゆうじゆう揚げてるとッつきに席〆、まずは才巻海老二本の天麩羅に薄切り南瓜の精進揚げ。このあつあつを下ろしをたつぷり放りこんだ天つゆにひたしてすぐ口に運ぶ。天麩羅ァ熱いが命ヨ。おなじもンをつゞけて喰ッちやァ舌が馬鹿になりやすンで二番手は南瓜。揚げたンで甘みがまして結構御の字。三番手ァ二尾目の才巻。やつぱり海老は胡麻油で揚げると旨さが活きやすナ。つぎは白身魚。むかしの江戸めえならぎんぽでやしようがいまそんな贅沢ァいえねえ、なんせ江戸めえの海にゐなくなつちまつたンだからどふにもなンねえ。きすかめごちか板さんの声が届きやせんでねェ。えいッ聞きなおしやァよかつたゼ。なんか身巾の広い白身で鳥渡薄気味がよくねえ。五番手ァ精進揚げでピーマンときやしたヨ。洋物が堂々と出てくるのもしようがねえか。西洋かぶれの御維新政府に東都(ゑど)が乗つ取られて早百うン十年。毛唐物が珍しくもなく江戸の天麩羅になじんでおりやすナ。ヘイこれで一巡でございますト〆に出てきたンは芝海老くれえの小海老の掻き揚げ。いまぢやァ芝の浜でとれる芝海老なんぞは夢のまた夢。どこの天麩羅屋でも掻き揚げは尻にお出ましヨ。てえことはこれが〆。寄席で言やァ取りをとる真打。天麩羅ンなかでいつちむずかしいのがこの掻き揚げなンかもしれやせんなァ。そこんとこかんげえながら喰やァ味わいも一入。天麩羅職人の腕ァ掻き揚げでわかるッてことになりやすかねえ。

2012年11月 6日 (火)

夏暦弁天山彌助(なつごよみゝやこのにぎり)

 とふに秋風も仕舞だつてえのに夏の咄するのは間抜けなんだが、そこをこらえて読んでくんねえ。梅雨のあいだぢゆう独楽ぢやァねへがずつと辛抱しッぱなしだつた彌助(※1)つまみに浅草ァ馬道(むまみち)添いの弁天山美家古ィ汗ェ拭きふき出かけたと思ひねえ。あつしァなんせ電気冷蔵庫なんかゞが世にでゝくるより先にこの世にでゝきたお古だから梅雨時ァ生もんはあたるよッてえばあさんの言ひ付け三ツ子の魂百までもで梅雨ンときァ鮨もs刺身も手ェださねえ律儀もンてわけヨ。こりやァ何だゼ、美家古の鮨があぶねえってえ咄ぢやねへンだ。でえいちあすこの鮨ァそこらにごまんとある舎利の握りの上ェ生刺身のッけてヘイお客さんこれがお寿司でございやすなンて目先ちよろまかすンとは職人の性根がちがいやすのサ。たとえェあげりやァ白身魚ァ薄く酢で拭いた昆布で〆る鮪の赤身ァ醤油に漬けて脂ッ気おとすし生堅くて性のねえいかや蛤ァ煮るしうで(茹で)りやァ味がぼそぼその海老ァでんぶゥ下に仕込んで甘みをつけたり工夫細工で喰わせ客ァそこゥ喰い分けて楽しむッてのが江戸の握りの本分だとあつしァ思ひこんでンのサ。そいで、鮨は握つてだされたら間髪をいれずに喰ふもンでねたの面(つら)ァひからびるほどおいといて酒呑んだり駄べくッたりするもんぢやァねえことぐらいは心得てンでいつも頼むハ付け台めえの席。お呑みものはト親爺がしずかな声で聞くネ。お茶をお願ひいたしやすよトね。こゝでとりあえずの麦酒だの酒だの頼む奴ァ嶋ァかえて居酒屋いきなッてンだ。鮨屋ァ職人さんと真剣勝負だゼ。蕎麦ァはなッからしめえの一本までぜんぶおンなじ蕎麦、蒲焼もぜんぶおなじ蒲焼にたれのしみた飯でかわらねえ。そこいくと鮨ァひと握りごとにねたがちがひ仕事がちがふンだ。そこを味わい分けるのが鮨の楽しみヨ。麦酒や酒なんて呑んで肴に刺身なんぞだしてもらつて一杯やつちやァねたと仕事のこまけえ違ひなんぞわかりやァしねえ。デそ
の日も飲みもンは茶一点張りサ。この茶がでえじヨ。なんで鮨屋の湯呑はあんなにでけえか。そりやァひと握り喰つたら生姜の甘酢漬け、半可通の客が職人の隠語でガリなんて通ぶつて言ふがざまの能(いゝ)もんぢやありやせん。客は素人でいゝのサ。金払ふ側なんだかンね。そのあとに茶ァひと口すゝつて舌を洗つてつぎの握りに向かふのヨ。職人が何十年も修業してその日の魚を選びその味を活かす調理の仕事してお客にだす。それをなんの頓着もなくばくばく喰ふやふぢやァ鮨屋ァいくはよしにしやせえ。鮨屋の大将に無礼。天下の通用金おめえの銭金ェどぶに捨てる罰あたりヨ。まずとッつきに握つてだされるのは昆布〆のひらめの。歯がさくッてへえッてねたと舎利が同時に口ン中でばらけて喉へきえてく按配が絶妙ヨ。でかい種が売り身の厚さが売りなンて冬の掛布団のやふな鮨ァしゃりが喉へ消えたのにねたが口ン中で居残り佐平治きめこんぢまつて気色がわるひッたらねえゼ。そこいくとこの美家古のァ心得たねたの大きさ加減がうれしいぢやァなえかい。手のひらァ上にして人差指と中指で鮨ィつまみ上から親指でねたをおさえ、そのまゝ手ェけえしやァ上手い具合にねたが真ッ先に舌にふれ舎利はねたの上にのつてるンでくずれることがねえッて寸法ヨ。つぎは真鯛。こゝンちァむかし気質でどれも煮切がぬつてありやすヨ。生醤油なんかつけて喰つたらねたそれぞれの魚の味わいがしんぢやいますからナ。真鯛ァ白身といつても平目たァまた食感がちがいやすナ。鳥渡(ちよいと)身の方から歯をおしけえしてきやす。すこし肉厚でそこにさわやかな旨みがつまつておりやすのが味わいどこ
ヨ。つゞいて赤貝。こりやァあつしの好物でねえ。しやりしやりと噛みしめる歯ごたえがなんともいゝぢやァありやせんかい。旨みがぎつしりヨ。つぎはすゞき。こいつも白身だが時季のもんですナ。あつさりとしていて気分がよござんすねァ。そのつぎは目先がかわる才巻海老。ひと茹した海老は淡白だから、甘みをつけたでんぶにして下に仕込んであるッて仕事ヨ。この味を知つちまふと細工ゥしねえとこの鮨ァがつかりいたしやすナ。烏賊(いか)はむかしながらの煮烏賊。種類はするめ烏賊。こいつゥやわらかく煮てうえに煮詰をぬつてだしてくれる。甘みがあつてこれがまたうめえ。つぎはこはだ。美家古で握る光ものはこれッきりヨ。鯵ださんまだなんてぎとぎとしたもンはいやしくッていけねえ。誰だつたか忘れやしたが物書き屋さんが四月ッ比(ころ)、いまの西洋暦でのことだがその比になるとこはだの握りをつまゝねえと夏を迎えらンねえと書ひておりやしたが江戸の比の本にやァ正月二日になると粋な若い衆が酢で〆たこはだをつめた木箱を肩にこはだのすゥと売声あげて町をゆつたりと売り歩いたとありやしたナ。坊主だまして還俗させてこはだの鮨を売らせたやなんて都々逸があるくれえヨ。正月ッてのは江戸の比だから天保暦(※2)。西洋暦なら二月の初めッころ。四月ッ比の魚ぢやァねへンですナ。酢のあとはがらりと味をかえて煮穴子。これにも煮切がぬつてだされやすナ。江戸湾ぢやァ羽田がいつち味がいゝと知られておりやしたねえ。瀬戸の穴子は焼きがいゝそふだが江戸のは煮るのがあつてるそふでこのちげえは皮のたちだそうですな。そのとろりと口のなかでとろける旨さァなんとも言えやせんなァ。甘みの煮穴子のつぎは赤身の漬(づけ)。まぐろンなかで赤身ァ脂のすくねえとこだがそいでも脂ッ気きらつて濃口醤油に漬けて脂ァおとす。それが江戸ッ子の気性ッてもんですナ。渋みのあるみつしりとした旨味となじませた濃口醤油があわさつて重みのある旨みヨ。そして〆は真打ちの玉(ぎよく)。甘みをつけた玉子焼きは江戸の自慢ですゼ。砂糖は贅沢品でやしたし玉子だつていまみてえな安価なもンぢやァねえ。あつしが鼻垂らしッころの昭和の御代だつて一個買ひで風邪でもひかなきやァ食べさせてもらえねえ
品だつたンだ。もつとも有精卵だからいまの安売り玉子たァ中身がちがひやすのサ。むかしから鮨屋の腕は玉でわかるッて言ひやしたものヨ。ところがちかごろはその玉子焼きを仕入れちまふ鮨屋が多ひそうだし客も西洋料理の食後の菓子かなンかのよふに勘違ひしてるやからが多ひ。情けねえヨ。寄席みりやァわかるだろうにヨ。真打ァ最後にトリをつとめてンだぜ。あゝまた弁天山美家古にいきてえ。
附(つけたり)
※1=彌助。握鮨のこと。歌舞伎「義経千本桜」が大当たりし、その劇中の彌助鮨より江戸での代名詞となる。
※2=天保暦。旧暦(太陰太陽暦)。幕府により天保時代に最後の修正が行われたのでこの呼名がある。

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