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2010年12月23日 (木)

巻の十二 都々逸手前美素(どどいつてまえみそ)

 師走だッて聞きやすが、なんですナ。町ィ往つてもどなたも走つておりやせん。今日びの師匠方ァふところがあつたかいンですかナ。マこんなのんきなこといつて歳の暮れェむかえられンのも日ごろのこゝろがけのよさ。貸しがあるわけねへが、借りも一応ねへことにして西洋暦の正月くるンでも待ちやすかナ。

甲駅馬ぐそ根津は谷風、情け深川猪牙高し
   ※甲駅=新宿。甲州街道の一番目の駅。江戸時代の都々逸「四谷新宿馬糞の中にあやめ咲くとはしおらしや」。※情け深川=情けが深いと深川をかけた。※猪牙高し=猪牙舟の船賃が高いと高速船であった猪牙が切る浪が高いをかけた。

茶屋でまつのはいとしい男、となり並木は松ばかり
   ※茶屋=江戸時代、雷門の通り向かいは茶屋町。※並木=雷門に向かう道は松の木の並木町。待つと松をかけた。

氷雨ふる夜に通ふて来れば、情けあるよト深情け

風の文字にはかわりはなけど、やけに身にしむ師走風

ぐずるをんな(女)にいさみ(勇)のをとこ(男)、はなから反りは合ひはせぬ

嚊ァたばねで女(め)下駄つッかけ、兄サ朝湯の早がえり
   ※嚊(かか)ァたばね=鬢付け油をつかわずにざっとたばねただけの髷。鉢巻をしめやすいので職人や仕事師(鳶など)が多くした。

待つておくれなせつかち哥(あに)サ、恋の時雨に濡れるまで

待つておくれよひとりで往くハ、色はふたりでひと色サ」

待つてはおれぬ年増のなさけ、色の深さにさきにいく

木枯らしさんの今夜もおかげ、主と添寝のうれしさよ

猫がわんと啼きや西から月が出、おまえの嘘もほんになる

九尺二間の薄き壁だよ、隣はなにを野暮かいな
   ※九尺二間=長屋の代名詞。長屋の一間(ひとま)は間口一間半奥行二間が普通であった。

あすはどの岸浮き川竹の、汐の満ち引きに身をまかす

三月(みつき)しばりのお妾さんよ、主に惚れたとなんになる
   ※江戸時代、三ケ月契約や半年契約の妾商売があった。

小鍋仕立の湯豆腐ひとり、乙な宵さとまけおしみ

からッと冬空哥(あにィ)のようさ、鳥渡(ちよいと)冷たくあたゝかい

吾が妻よとハ主さんうらむ、あたしャ小梅(こむめ)の日陰花
   ※吾が妻=吾妻。吾妻橋を渡ると向島。そこに小梅村があった。日本橋の大店の主が黒板塀の寮(別荘)などを建て、そこに妾を置いた。

小梅咲いたら押上女房、おまい請地と待ッとくれ
   向島本所の地名折込。押上女房=押しかけ女房。請地村は押上村の隣。

縞の着物でちらりと見返り、仇な姿の吾妻橋

畳とん\/酒をおくんナ、船宿あそび柳ばし
   ※奢侈禁止令で派手な遊びが禁じられていたとき、船宿の二階で芸者に爪弾きでひっそりと遊ぶのが流行った。宿の者を呼ぶにも手を叩くと音で外にしれるので、畳を叩いた。

哥(あにィ)水髪勇(いさみ)ぢやないか、そんなおまいにちよと惚れた

からす雪駄に蓑虫鼻緒、兄サ今宵はどこの里
   ※からす雪駄=薄墨色に染めた雪駄。※蓑虫鼻緒=蓑虫の袋を広げつなぎ合わせて鼻緒にしたもの。※里=吉原などの遊郭。

ぴんと立てたよ貝の口の手、博多で決めた男ッぷり
   ※貝の口=角帯の結び方のひとつ。二枚貝が口をあけ舌(足)を出したような形に結ぶ。手とはその舌に当る部分。武家以外がした。

【番外】牡蠣喰へど鐘も鳴らずや、大仏おわす板橋の宿
   ※柿喰へば鐘がなるなり法隆寺(正岡子規)のもじり。※板橋赤塚には東京大仏がある。赤塚の蕎麦屋で牡蠣蕎麦をすすったが鐘は鳴らず。

2010年12月14日 (火)

江戸華夜咲婀娜(ゑどのはなよるのあだざき)

Img_0016

 しかしなんですなァ。だれがつけたンだかしらねえが、浮世たァよく言つたもんでございやすなァ。その日くらしのたつき(生計)のよすがゞつらいと思へば重くもなろうが浮いた浮いたの浮世とやりすごしやァあすもけふとかわらぬ風が吹く。生きるも死ぬも思ひやふ。気散じでさらりといきやしよう。なんて講釈たれゝる身分ぢやァねへが、この世はたのしいものと号(なづけ)てンのがいまさらながらの浮世絵ヨ。もとは錦絵と呼んだそうだが、その咄は鳥渡(ちよいと)脇ィおいとくとして、お目にかけてえいちめえがありやすのヨ。
 浮世絵ッてッたッてひと色ぢやァござんせんようで。役者の似面(にづら。似顔)絵もありやァ花魁の大首絵もある。笠森おせんなんかの評判招聘(かんばん。看板)娘の姿絵もありやァ色気のまつたくねへ富士のお山の絵だの東海道五十三次なんて道案内みてへな図もある。そこでだ。いつち(一番)手がこんでンのが、枕絵ヨ。會本とも笑本ともいろ\/呼びやすが、ようは手習指南所(学校)ぢやァお目にかけてくんねえ秘画ですナ。なんでそんなあやしげなもんがいつち手がこんでンだと言やァ、彫師が一世一代の執念で髪の毛より緻密に彫った版木を十板だの十五板だのつかい色をさまざまにつかうのヨ。耕書堂(蔦屋重三郎の見世)なんかの書肆(ほんや)でならべて売つてゐる写楽の役者似面絵とは大違い。裏で売る。なんまいかをひと組にして桐箱におさめ、十両だのなんだのゝ高直(こうじき。高値)であきなわれてゐたそうヨ。そして幕府の役人への贈答だの、良家の娘の腰入にご指南役代わりに持たせたりしたッてからなまはんかの出来ぢやァとおらねへ。こうした教育係の役目はわかりやすい絵解図でなきやァなんねへが、遊びなれた大通(だいつう)辺(へん)のおめがねにかなうもんとなると、洒落のその上をいくようでなきやァ咄にならねへ。ひとひねりふたひねり。あからさまは野暮だよッてネ。見せはしないが、見たより深い。そんな洒脱に上品な色気。構図の工夫に彫師の冴え。鬢やうなじの毛筋、着物のひだや柄、薄物をとおして透ける肌の線。絶品の逸品が、あつしァかの哥麿(うたまる)の歌満くらの中のこのいちめえだと思ひやすゼ。をとこ(男)が手にする扇子の狂歌は宿屋飯盛(やどやのめしもり)。こいつァ石川雅望(まさもち)の狂名ヨ。西行の鴫たつ沢の秋の夕暮れの本歌取り。蛤にはし(嘴)をしつかとはさまれて鴫たちかぬる秋の夕くれ。あゝこの本刷にひとめ会ひてえ。

2010年12月12日 (日)

巻の十一 都々逸手前美素(どどいつてまえみそ)

風がだんだん冷たくなつてきやすなァ。お江戸にや赤城おろしだの筑波おろし、中をとつての日光おろしなんて冬の木枯らしの種はつきやせんが、風邪など引いてしよぼくれてねえで、いつそ目やにをとこ(男)に風邪ひきをんな(女)なんてのも、乙粋と思つて花のさくまぢやァやりそごしやしようヤ。

風にふかれてわびしい宿ハ、番太の焼いも喰つて寝る
   ※番太=番太郎。町の木戸番。副業に駄菓子、糊、草履、冬は焼芋、夏は金魚などを売った。

敵娼(あいかた)ハ消え名代(みょうだい)は来ず、おしげりやすとは面(つさ)にくし
   ※花魁や女郎はまわしと呼び一夜に幾人もの客をとるが、そのほとんどの客のもとには名代として妹代わりの新造を時つなぎに代りに行させるがそれには指一本ふれてはいけないのが吉原の定めであった。

赤城おろしの暮六ツどきは、熱いちろりが戀しゆうて
   ※江戸時代は庶民が入る屋台や居酒屋では徳利ではなく銅のちろりで燗をつけるのが普通であった。

主は徳利妾(あたしヤ)さかづき、ふたつそろわにや夜は来ぬ

地女(ぢをんな)が戀女郎とが色、妾(あたしァ)なにかね主さん江
   ※江戸の男衆は使い分けていたようですナ。

風鈴蕎麦でかけをすゝッて、土手八丁ひとッぱしり
   夜、天秤棒で担いで蕎麦をあきなって歩いた夜鷹蕎麦は後期は風鈴をつけその音で客を読んだので風鈴蕎麦の名でよばれた。

ちろり冷めても主と妾(あたし)は、人もうらやむ熱燗サ

雨が降るンで帳場は休み、根津で抱きたし銭はなし
   ※帳場=江戸の大工左官などの隠語で、普請場の意。※根津=谷中根津神社辺は岡場所でにぎわった。

けやき木枯らし桶屋のもうけ、夜鷹蕎麦やは燗儲け
   ※風が吹いて桶屋が儲かるにかけた洒落。

自惚鏡に見惚れてみてハ、この世に目のあるをとこ(男)なし
   ※自惚鏡=手鏡。江戸語。

筑波おろしはありがた山(やま)ヨ、主とあんかの四畳半
   ※ありがた山=ありがとうさんの「さん」を「山」にし、「やま」と訓じる江戸の洒落表現。

荒れる大川今宵はうれし、主ハ来れぬが情夫(まぶ)が来る
   ※旦那の多くは日本橋界隈の大店のあるじ。川向うの向島小梅村辺の寮(別荘)に妾を置いていた。

九尺二間は手狭な城ヨ、中は小粋な四畳半
   ※九尺二間=長屋、の意。標準的な長屋の一軒も広さ。三坪。但し手前に土間があり、実質四畳半。

金で買われる女郎(あたし)ぢやあるが、買占めつもり武佐(ぶさ)は野暮
   ※武佐=武佐衛門の後略語。田舎武士を揶揄した語。江戸語。ぶざまの語源か。遊女は一夜に複数の客が揚げるのがならわし。通称まわし。持てぬ客はすっぽかしをくらった。

あんか仕込んだ屋根船もやい、いとし殿御と障子たて
   ※屋根船は障子をたてめぐらすことは禁止されていたが、心付けをはずめば船頭が障子をたて、陸へしばらく姿を消してくれた。

三味にのせても素知らぬ素ぶり、つれないお人誰ちやいな

文(ふみ)をだしてもつれないお人、思えばあやつ字が読めぬ

萩もすゝきも咲いちやァゐるが、花のあたしが侘びの秋

朝から小ぬか降る寒い日は、足駄の音に腰が浮く

人肌戀し落葉の宵は、猫をあんかの四畳半

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