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2010年11月27日 (土)

江戸学双六(おほゑどあそびすごろく)

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 まず振出しは、江戸ハ鬼門牛寅を封じる浅草寺は雷門。比(ころ)は天保暦神無月十八日。西洋かぶれの明治からこつちの羅馬(ローマ)暦ぢやァ己か他人さまかわからねへが働きに感謝しろッて旗日ヨ。その朝の四ツ半じぶん参集したのは善男善女老若男女縁起大吉末広がりの大人八人(はッたり)にお子お一人加わつての大振出し。さあ\/いざ\/往かん。江戸ン比火除地に拡幅した浅草広小路、いまァ雷門通りを本願寺の寺町田原町(たわらまち)へ。めざすは一ツ目のもくろみ武蔵屋本店の松茸蕎麦。これにやァ先の冬からぞつこんヨ。これがあるか、それとももふ一ツの冬の華あられ蕎麦。けふの一天六地丁とでるか半と出るか。のうれん(暖簾)かけるもゝどかしくなだれこんで蕎麦屋の二階。討入は松坂町なら田原町は松茸か、あられはまだ降らぬかト問へば松茸ならまだ元気てンで、皆々うちそろいて松茸蕎麦をあつらえる。地元朝日の麦酒で乾杯。門出祝つて呑みほせばやがてくる小ぶりの丼、ものものしい黒漆の木蓋をそつと明けりやァふわりと香る松茸の芳香。びつしり敷きつめた松茸で蕎麦ァ見えやしねえ。尾張屋の大将、奢(おご)りやしたね。ありがた山のほとゝぎす。まず松茸をかきわけて蕎麦をひとすくいずゞッとすゝつて、おもむろに松茸いつぺん噛みしめりやァ歯にしやきッとくるたつぷりとした肉厚の歯ごたえ。見世によつちやァよくこんなに薄くそげるねへッて技に感心するくれえ薄いのがあるが、こゝンちの大将は江戸ッ子だよ、しみッたれた芸当はしねえヨ。大盤振舞ヨ。その心意気がうれしいねえ。来年の冬も生きてたらまた来るよッてンでのうれんはねのけ、田原町から銀座線。一ツ稲荷町(いなりちょう)二ツ(上野)で三ツ目上野広小路。こゝは江戸ッ比ッからの火除地の下谷広小路。寄席の末広亭、福神漬の元祖酒悦をかすめて四ツ辻。こゝにやァ江戸のむかしは不忍池からながれだした小川に三本の橋が行儀よくならんでかけられてゐた三橋。いまァその面影ありやァしねへが渡つて池の端ハ台東区下町風俗資料館。お一人さま浄財偽南鐐三枚(三百円)投じてへえりやァ一瞬でもふそこは江戸の町。実正(ほんと)は大正の長屋移したンだがね。なに江戸とほとんど変はッりやしねンだ。さてお立会い。あつしの腰ィおろしてるのが床几と申しやして、江戸ッ比の蕎麦屋居酒屋みなこればかり。活動ドラマのようにテーブルだの酒樽の椅子なんぞござりやせん。目のめえに鼻緒問屋がございやすが、表通りにはあゝした大店(おおだな)ばかり。町をちょうと呼ぶのは一丁、いまで言やァだいたい百米四方を一ツの町にしたからでして。武家地にやァ町名はありやせん。武家屋敷の地域にやァ石高に応じて人数をきめて辻番をおいて昼夜をたがわず警護をしておりやした。とりわけ江戸のはじめッ比は敗軍の侍が浪人してそれが辻切り押込でぶつそうだつた。町方でも自身で番をせよッてんで自身番が町ごとにおかれその費用は表通りのお店や地主の負担。長屋住まいの庶民にやァそうした税はありやせんでしたのヨ。町内ごとの木戸の横にハ小屋がたてられ番太郎ッて番人が町の雇われで住んでゝ夜の四ツに閉め明けの八ツに開いたンで活動ドラマみてえに盗人が夜の町を駆け抜けるなンてことができるはずがねへ。また武士は誰であつても外泊禁止。夜はかならず屋敷に戻つてゐなけりやなりやせんから、温泉遊山などできねへ相談だが、みな健脚なんで鎌倉江の島くらいは日帰りでこなしておりやしたそうデ。さて町の木戸番、番太郎はつめて番太とも呼び、安い手当なんで駄菓子、糊、草履、ほうき、冬には焼き芋、夏は金魚などをあきなつておりやした。木戸番ですんでかならず木戸のとッつきに住んでるわけで路地の奥ッてのはない。さて長屋を九尺二間と言ふのは一軒の大きさ。九尺は一間半で間口、二間は奥行だからぜんぶで六畳なんだが入口に半間の土間があるから部屋の正味は四畳半。粋なと枕詞がくりやァ跡(後)に四畳半とつゞくのはそッからでやしょう。入口の障子と部屋の畳は店子持ち。銭のねへやつァ板場で寝起き。甲斐性がありやァむしろを買い、やがて銭ィためて畳の一枚買いヨ。運よく嚊ァの来手がありやァやがて子ができる。そしたら数えの七ツで十年年期奉公の証文いれて丁稚奉公。世間の仕組ができていて喰う寝る着せるを先さまで面倒みてくだすつてそのうえ見世を〆てから番頭手代の諸先輩が読み書き十露盤(そろばん)を仕込んでくださる。いまァまつたく逆ヨ。なんもできやせんが給金おくんなッて手ェだしやがる。マだれでも喰ッていかなきやァなんねえけど、鳥渡(ちよいと)虫がよすぎるような気かいたいしやすですヨ。こんな気がしたとこでけふの上がりといたしやしようか館をでて、目と鼻の先の蓮見茶屋。蓮の上へ張りだした大縁台の極楽浄土で心地いい秋風に吹かれて本日の〆。

2010年11月 7日 (日)

巻の十 都々逸手前美素(どどいつてまえみそ)

 めつきり肌寒くなつて、こりやァこれで艶つぽい場が想われて都々逸にやァよござんすナ。三味はなけれど口ずさんでおくんなせへ。一ッときの気散じのおなぐさみ。

看板いちめえどこ吹く風と、奴は意地の寒ざらし
    ※奴の寒ざらし=奴は冬でも主家の紋を染めぬいた法被(看板)一枚に褌一つ。尻は寒さに白い粉を吹いていたとか。意地とハリだねえ。

箱屋お供に姐さんどちら、いちど呼びたい仇ッぽさ
     ※江戸ンころの芸者は三味線箱かついだ男衆(箱屋)お供にお座敷に往つたそうですナ。

あばよと抜けて大門くぐりャ、しんと冷えこむ明ケの空

ぴたりと三味の音がやむ二階、妙なしずかさ気にかかる
    ※奢侈禁止令がでた江戸ぢやァ派手な遊びはご法度。しようがねへンで柳ばし辺の船宿の二階で芸者よんで三味の音もひかえめにつま弾きでッてネ。

紅のついたる文(ふみ)もろて往く、はやる心の猪牙の波
    ※花魁からきた巻紙の文。唇で湿して切つた紅の跡(後)。つい釣られて猪牙舟の船頭に酒手はづンで、(三谷)堀までぐいでやつてくんなッてことになり。

こりゃ妙ぢや情(なさけ)深川、月島ばかり月夜かな
    ※なさけ深い、深川をかけた。
    ※吉原ばかりが月夜かな、のもじり。

想ひ残して出る大門に、明ケの烏がアホと鳴く

二階で待てば梯子とんとん、猫が爪弾く柳ばし
   ※猫=者(しゃ=芸者) ※二階=船宿の二階

曲げた袷工面でださにャ、風が身にしむ秋の宵
       ※曲げた=七の字の形から、しち(質)屋の意。

土手八丁往きは能(よい)々、帰りはつらい寒(かん)の朝

九尺二間の宵の冷や飯、独りかきこむ侘び茶漬け

上野山下けころの安買ひ、得なつもりがかさもらひ

秋の七草主の好みが、鳥渡(ちよいと)気になる女郎花

素足つめたい秋のひとり寝、あんか入れよか主恋し

秋雨に濡れ右と左に、門(かど)で別れる出会茶屋

小梅(こンめ)の寮で主待つ宵は、捨てた男が想われる

往きの八丁はものともせぬが、帰り夜明けの土手わびし

神楽坂なら粋でもあるが、軽子坂ぢや車押し

動かざること深川不動、疾(はや)きことなら三囲(みめぐり)サ

からすがカァで客は朝となり、女郎は夜で深寝入り

あんかモひとつ床にも仕込み、主をまつ夜は胸の花

木枯らし一号吹いては来たが、二号待つてる根岸里

舟をだしても舟頭(せんど)とふたり、不粋な奴にこい(鯉・恋)釣れぬ

哥(あにィ)浴衣に袷かさねて、下馬(したむま)すがた勇(いさみ)だネ

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