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2010年9月21日 (火)

巻の八 都々逸手前美素(どどいつてまえみそ)

  なんてへ夏だいッて悪態もつきたくなるッてもんぢやござんせんかい。引際がでえじッてのは人間だけぢやァありやせんヨ。この長ッちりの夏にやァ考えさせられやしたなァ。ト言つてもあつしァとつくに引いた身でございやすから、これ以上引くと三途の川におつこちヨ。

斧琴菊(よきこときく)もなきこの浮き世、もふ鎌○奴(かまわぬ)の気まゝ生き

けふときのうはどうちがうかは、主と別れた泪の日

主の想ひはきっぱり捨てた、それでも消えぬ主の金

主従三世と欲ばらないが、せめてなりたや二世の縁
      ※親子は一世みょうとは二世主従は三世とか。

舟をだす人それを漕ぐ人、土手でながめて涼む俺

向ふはつたか左平治さんの、夏の居残やぼすぎる

秋を泣いてる妾(わたし)の胸を、しらぬふりする主の罪

黒羽二重に白献上ずッぷり濡れた、ありャ仲蔵粋姿

更衣とはきつい決まりよ、誰がきらりょかこの暑さ

秋雨に濡れ障子たてたる、催合(もあい)舟気になるよ

深川いこか一ツ目往くか、このまま鳥渡(ちょいと)柳ばし
   ※一ツ目=本所一ツ目橋。この界隈に岡場所あり。
   ※柳ばし=船宿の二階で芸者をよんでの軽い遊び。

寮でくらすもわるくはないが、同じ寮なら小梅(こむめ)村
   ※寮=別荘。小梅村=向島近辺の百姓村。

照れば炎熱降りやァどしャぶり、まるでじやけんなおまえさま

主と妾(あたし)の仲は長残暑、あきの立ち入るすきがない

一ッ天六地さいころ振ッて、一ツ一ツ目四ツ四目屋なんぢやいな
   ※一ツ目=本所一ツ目橋近辺の岡場所。
      ※四目屋=両国にあった媚薬性具屋

あきゝぬと目に見へぬなれども、主のこゝろにあきぞ立つ

そつと水茶屋ふすまに隠れ、忍ぶふたりはおッこちサ
    ※おッこち=惚れ合った仲

錫の茶碗に露をびつしり、冷やしあめ売りまつ暑さ

いく往くと言つて来ぬ秋さんは、まるで入婿主のやふ

つらい浮世を柳の枝は、ふわりふわりとうけ流す

肌に秋風往く夏あばよ、またのご縁サ鬼笑ふ

秋風立つも請けだしかねて、麻かたびらの百隠居
   ※百=なんにしても銭百文くらいしか使わない吝。

あけッぴろげはみッともねえよ、ト言ふのにまた開く箪笥

おまえ百文わしや九十六文、ともに貧の字みょうとけち
      ※銭を使っても緡(さし)一本の百文くらいしか使わない吝。百文として通用する緡一本は正味は九十六文で流通していた。

三月(みつき)しばりのお妾稼業、好いたお方にやしばられぬ
   ※参加月契約のお妾さん。金のない主になると三人で寄り合いで金を集めて三月しばりにしたなんてしみッれたもあつたとか。

虫売りの声遠くにきいて、昼寝ごくらく罰あたり

正朝屋形船宵噺(しょうちょうふなゆさんよいばなし)

 つい先ッ比(ころ)ヨ。日も西ィかたむた丁度いゝッころに門仲(門前仲町)に気のおけねえ同士であつまり、流しの駕(かご)ォひッつかめえて、越中島は船宿内田の川岸ィおッ勢(ぜい)で押しかけたと思ひねへ。やつはり江戸の気ッ風だねえ。なにが感心したかッてと、小ぎれいなことヨ。道から川岸まぢァ鳥渡(ちよいと)間があるんだ。そこをでへじなお客さまのお履物よごしちやァいけねへッてこゝろづかいでやしよう。これが道ならほうき目が立つッてやつヨ。板をならべた木造りの桟橋、木の葉いちめえおちていねへ清め方。うれしいねえ。小ぎれい小ざつぱりッてのが、お江戸の気風ヨ。
 今宵は春風亭正朝さんの噺をきこうッて魂胆で好きもの同士が四十(しじゅ)ッたり集まつて屋形船仕立てたッてわけだ。あつしァでけえこと言ふわけぢやねえンだが、噺家さんだの芸人さんを師匠だのさん付けで呼ぶァは憚りさまだがお断りだつたンだ。そうだろう。媚びてるやふだし、親しいンだと天狗になつたみてえでしゃれくせえヤ。先方さんはあつしの師匠でもお客さまでもねえンだ。お客さまはこつちだよッてネ。だから、志ん生だって六代目圓生だつて呼び捨てヨ。ところがこの正朝さんはいけやせん。なんせ高座ぢやねへ素の宴席で向かい合せになッちまつたンがはなの出会いヨ。でやすから呼び捨てにやァできねへ。こんどで三度目の顔合わせなんだが、はなンときもじつァどつかの高座で噺ァきかしてもらつたお顔だなト思ひやしたヨ。見覚えがありやしたからネ。
 なんの役にやァならねへがいってらッしゃいましト船宿のおかみが舳(とも)にそつと手をそえて船をおしだす江戸の所作もなく内燃機関の音ごんごん\/と川を下る。見渡せばいつのまにやらそこかしこ陸(おか)に灯がともり、吉原ばかりが月夜かなの風情。ご存じお台場に、軒先に赤提灯づらりとならべ景気自慢の屋形船ェたゞよわせ、さて一席ご機嫌をうかゞいやしてトは言はなかつたが、正朝師匠のお待ちかね船徳の高座。船で船徳をきくッてェ洒落の趣向。この噺を揺れながらきくッてのはそうそうできねえあすび(あそび)ですゼ。あつしの鳥渡した知り合いが正朝師の贔屓の尻もちしてンで声をかけてもらつたが占めこのうさぎで一枚まぜてもらいこの耳福の宴席。ふだんは志ん生の噺ァCDなんて録音円盤で餓鬼ッころさんざんきいた噺を懐かしくきいておりやすが、このなげえ噺ァいくつかに切れてやして、主人公の徳兵衛の役柄も変わるンだが、この宵は正朝の独演会。勘当されて転がりこんだ船宿で船頭になるッて始まりから、お客さん船頭もふひとり雇つておくんなさいの下げまで、船頭徳兵衛の駆け出しじでえをすつきり聞かせてもらいやした。贅沢にやァつづきがありやして、船に乗り込んだときッからあつしのめえに並の二人分はありそふな大男が藍微塵の小千谷縮の対に鳥の子色の博多帯。噺家にも相撲あがりのいかついのがゐたが、こちらは笑みに愛嬌(あいけう)のあるどこかで見た顔。おゝそふヨ、角力の大至関(だいしぜき)。なんと洒落にトリで、相撲甚句をいくつもご披露。ドでかい図体からでる声ァはりがありやすねえ。こいつァ思ひがけなく手にいる百両ぢやァねへが耳にいる果報。も一ツ果報は船宿内田の刺身にあわびの振る舞い。かさねてその肝の当座煮の振る舞い。こいつァご馳になりやした。噺、甚句、漁師料理。秋の船遊山(ふなゆさん)、鼎(かなえ)三昧の宵ヨ。どうでえ。

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