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2010年7月29日 (木)

十指極楽膝栗毛(いのちてのうちごくらくかいどう)

 ついこねえだのことだが、また日本人の寿命がのびたッてそうだ。女子衆(おなごし)のしぶといのはいまにはじまつたことぢやァねへがをとこ(男)もちつたァのびたらしい。七十九歳となんぼかだそうだ。でダ。指ィ折つてかずえてみたらなンと両手の十本ンの指ン中にへえッちまう始末ヨ。いまァ六十八だからねえ。コウ兄弟、先が見えるッてことはこういうことを言ふンだぜ。

 雨の野郎はしみつたれな降りなんでたかァくゝつて銀座へおでましヨ。手にハ洋傘黒蝙蝠、もう片手にやァ勝色の鹿革に鳥の子色の勝虫ちらしの印傳合切袋。長着は上布の白絣に黒橡(くろつるばみ)色の無地の帯。例のとおり喜世留(煙管)筒に漆絵細工の革多葉粉(煙草)入れぶンさげ扇子をぶちこみ、腰のみぎにやァお馴染隠居姿彫りの根付に白印傳釘貫文様黒で決めた印籠ならぬ小箱をさげのおきまり風体。足元ァ黒漆真塗三平(足駄)に爪がけの雨仕度サ。三丁目ハ裏どおり煉瓦亭のならびの小体な手打ち蕎麦屋きだで、すだち冷ぶっかけを一丁お誂え。でてきたどんぶり見て思はずうなつたヨ。丼の面(おもて)ェ整然とならべた輪切りのすだちで覆つてあんのヨ。しばし見惚れの図ですヨ。ひんやりしたつゆン中からすだちの香りを天女の衣にまとつた蕎麦ァひきだして手繰るンだが、この蕎麦がまた腰があつてうれしねえ。香り歯ごたえこれもでえじな旨味。薄味におさえたつゆがまたさわやかで跡()惹きものヨ。暑いうちァまたたぐりに往きてえネ。

 通り渡って銀座松屋呉服売場。むかしァ此処の課長がなにくれと面倒をみてくれておりやしたんだが、あちらァ身ィひくお歳、あつしァも鴨長明の真似でもと八ヶ岳に引つこんぢやつたのが縁の切れ目。ずつとごぶさたでいたんだが、余命なんて洒落たもんが手のひらにへえッてきたとなりやァこちとら黄金餅の西念ぢやァねへンだ。跡()ァ早桶棒組の日当酒手に御亡代くりやァ残しやァ御の字ヨ。ッてんで暑がりのあつしとしちァこねえだからちらちらしてる明石縮が気になるッてことでさァ。ひぐらしの羽のように薄く軽い。こいつァ殺し文句ですぜエ。お見立ては黒地の一本か鳥の子。迷いに迷ったねえ。黒の方ァ白の糸を織り込んでの一分格子。鳥の子は黒橡(くろつるばみ)色の縦縞。目を寄せてよくみりやァ縞は立湧(たてわき)文様。味なことォするぜへ。さんざんまよったが、をとこは度胸余生は短命ッ一丁着こなしてやりやしようッてんで清水の舞台から飛び降りやしたゼ。寸法きめてお頼みもうしやしたよト跡()ハこの比(ごろ)のおきにいり尾張甼(ちよう)角、大番屋(おほばんや。交番)の向かいにゝよつきりビードロ筒の洋館の二階水茶屋でしぐれをやりすごし、銀延べ喜世留で一服二服。帰りぎわのご新造さんがごようすがおよろしくてなんてからかつておくんなさるのも白絣のご利益。魚沼奥会津にやァ足向けてねむれやせんゼ。黒雲すぎて鳥渡(ちよいと)やんだそのすきに鰻屋の暖簾(のうれん)鼻ッつァきでかきわけ麦酒にうざく。〆はうな丼。やつぱり江戸ッ子は丼だネ。ぐい造りでこさえてもらつてさッとかつこんで帳場ィ素ッ飛んでゆくッてネ。そのくれへにすばしつこさなきやァ生き馬の目ァ抜けねへゼ。

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コメント

喜三二様

愚老はしばらく貴殿の電子式公共張り紙(ぶろぐ)を拝読しておりませんでした。
文字が変わり、全体の感じも変わりました。

愚老は無学(本当は、無学ではなくあまり学問は得意でない)なので、文章が理解出来ません。
正解を教えてください。
明石縮は、黒字の一本か鳥の子のどちらをお買い求めになりましたか?

初老期の愚老 奈の字

moon3奈の字の旦那江

 読んでくだすつてありがたふおざりィやす。文字がかわつたンは仕掛を新しい七に買い替えてつかつてるためでやしよう。お見苦しくてもうしわけねえがじきにお馴れになりやしよう。それまで鳥渡(ちよいと)ご辛抱しておくんなせえ。
 正解とハ。さてなんのことでございやしよう。お旦那のお文からアお問い合わせの中身が読みとれやせんのですが。
 明石縮は鳥の子にいたしましたヨ。お歳のおわけえしと(人)が着たら気障になりやしようが、年寄りの特権ですな。

 喜の字

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