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2010年7月11日 (日)

四万六千日(しんじんよくのつッぱり)

 五月の二十九ンち、当世西洋かぶれ羅馬(ろうま)暦で言やァ7月10日。久々の皐月晴れそれもあしたが晦日をめえにしての上々陽気にさそわれての浅草ふりだしに柳ばしから人形町で不義理のわび跳んでけえして浅草並木で〆と腹づもりだきやァでつかく雨ッぷりばつかりでごぶさたの雪駄ひッぱりだしてのおでかけ。上布(じようふ)の白飛白(かすり)にねず(鼠)の細身帯片ばさみ黄楊(つげ)くり貫き喜世留(きせる)筒に漆蟹ゑ(絵)尽くしの革多葉粉入れと扇子差し腰にやァ杖突隠居像の根付に刻みィ仕込ンだ釘貫柄白印傳小箱ぶッさげ足元ァ麻の白足袋にねず色染めの裏革鼻緒の雪駄。雷門はごつたかえしの大人出。土曜の休みの上にけふはなんと四万六千日(しまんろくせんにち)。たつたいちンちのけふのお参りで四万六千日分のご利益があるッてえ慾深と無精にやァありがてえ観音さま大判振る舞いのいちンち。通り抜けの仲見世は一寸刻みの二分歩き、人いきれと炎熱でうだるようなヨ。もまれてきざはしあがつて賽銭箱と思へる方めがけて善男善女の頭ごし、ご縁にすがろらふと卑しいこんぢやふ(根性)大慾(だいよく)大贋(おほにせ)南鐐(なんりよう)五百円玉ァぶんなげて、けふもお参りさせていたゞきやしたとドたまァ(天窓(あたま)頭)下げて人波かきわけ弁天山横目にすぎて弁天山美家古の戸を明けりやァほッとする涼しさ。付け台めえに腰をかけ、なんとかのひとつ覚えの浅茅の彌助を握つてもらう。まずしよッぱなは昆布〆めの平目とおなじく真鯛。二本の指で両脇からはさみ上を親指でおさえてネタを下にシヤリを上に返して喰うから、舌に真ッ先にくるのは煮切の味、つづいてネタの歯ごたえ味わい、ネタとシャリの大きさ加減が上手なんでネタが口ン中に居残り左平次になッちまう様(ざま)はねへ。赤貝は肉厚。噛みしめる歯ごたえがたまらねえぢやァねえかへ。皮を二分残したかつを(鰹)もさつぱりした夏の味ヨ。才巻海老はでんぶの仕込み。こはだは跡(後)味のほどのいゝ酢の味がうれしいネ。肉厚の煮いかと穴子白焼きのさわ煮は煮切が旨味をひきたてるねえ。〆は玉(ぎよく)、ちょい甘めのたまご焼きァ江戸の御ご馳走。そいで鮨のトリをとつてゐるわけヨ。このまゝけえッちやァお名残りおしいッてんで歯ごたえが絶品の赤貝をも一ツと握つてもらつて美家古鮨を跡(後)にする。伝法院通りを鳥渡(ちよいと)歩くが蒸す暑さに柳ばしも人形町も消えてなくなり水茶屋鉢の木へ吸い込まれるようになだれ込、歳がいもなくかき氷の宇治で汗をひッこます。暑いのはあつしァ大の字つきの苦手ヨ。勘弁してくんな、なんせあつしァ大晦日がすぐそこッて冬の申し子、夏ァ仇(かたき)ヨ。
 日陰をよつて雷門通りわたり馴染みの並木藪蕎麦。運が良くも悪くも四万六千日の土曜、蕎麦ッ喰いの行列ヨ。畳の小上がり柱ァ背負(しよ)つて、冷酒に焼き海苔。お向いの椅子席に子連れの若夫婦。亭主は洋下着(Tシャツ)の不通(やぼ)仕度なれどご新造が粋でやしたねえ。まずお顔立ち。涼しげな目元口元通つた鼻すじ薄化粧。前髪あげて赤い小ぶりの櫛を差し鬢(びん)もつめて襟足だし揚げてまとめて珊瑚の簪(かんざし)。蕎麦のたぐりようも堂に入つておりやすヨ。つゆに蕎麦ぜんぶつけるよふな野暮はなさらねえ。蕎麦のしつぽ鳥渡(ちよいと)つけてずずッとたぐつてお召あがりだ。お召物は黄膚色(きわだいろ)の地に鶯色の縞そこに破調で朱の縞がはいる粋なもの。生地は遠目で見わけがつかねえ。銀地の帯にやァちいさめの緑の柄を飛ばしその柄の合間にやァ洋酒の瓶を模した柄を配した新趣向。足元ァすつきり素足に右近の焼き桐下駄。赤い鼻緒が目にしみるッてとこだ。はいご馳走さまと野夫(やぼ)亭主とお子が見世を出、お勘定はらつて一足遅れて出がけにご新造、こちらに鳥渡(ちよいと)目で会釈ヨ。あつしも眼差しで軽くご返礼。おッと観音さまァも粋だねへ。四万六千日のご利益ぐい造りでもふくだすつたッてわけかい。ありがたや\/。

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コメント

おやまあ、眼福でございましたね。
それにしても師匠のいでたち、読んでて嬉しくなりまさあ。ご新造とて目配せもしたくなろうというもので。
たまにゃあ暑くて混んでるとこにも行ってみるもんですな。どこから観音様が微笑むかわかったもんじゃねえ。

それにしても着物姿でそばぁ手繰るなんざ、度胸がおありで。さぞかし慣れてらっしゃるんでせう。かなわねえな。
あたしなんざつゆが跳ねやしねえかと無粋な心配しちまうよ。江戸っ子にゃほど遠いねこりゃ。

moon3ねこぢゃねえやいのお玉姐さん江

 いつ読んでも姐さんの文(ふみ)ァ歯切れがよくッて気分がよござんすナ。ほんに観音さまがご降臨くだすつたッてへ按配ヨ。いまこうしてゝも瞼にお姿浮かばァ。
 それにして世の中わからねえネ。なにをどうしたらあんな権兵衛亭主にあのご新造(しんぞ)がつくのかねえ。

 喜の字

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