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2010年5月 6日 (木)

銀風爽々単出会(ぎんざぶらぶらひとえのであい)

 陽気が能(よ)くなつたと思つたらあッてへ間に暑くなつちまつたト文句を言つても十日もしねへ内に衣更夏は目と鼻の先なンだからしようもねへンだがそれにしても暑いッてんで袷も着ちやァいらんねへから墨絽の半襟かけた茶の絽襦袢に革色[※1]結城の単衣に黒の柄織の帯。扇子と喜世留(きせる)筒ぶちこんだ二本差し多葉粉(たばこ)入ぶらさげ後腰にやァ杖つきぢゞいの象牙根付で誂えの釘貫柄白印伝の小函さげ、手にやァ根付と韻をふんで南鐐(なんりょう。純銀)柄黒檀の杖あまる片手にやァ勝色[※2]に勝虫[※3]ちらしの合財袋。白足袋に雪駄つッかけ銀座の風にふかれにおでまし。お暑うございますと二丁目ふりだしに蕎麦ァたぐって暑気払いト裏通り。時分どきだッてのに煉瓦亭のめえに人垣がねへ。こいつァめッけもんトすばやく戸を明け丁度あいた席へなだれこみ、カツレツ一丁ぐいづくり[※4]で揚げてくんなト誂える。思やァかれこれ廿年の余もめえヨ。雑誌だかなんだかにのつたのが運の尽き。物珍しがり屋の一見(いちげん)客の鈴なりで常連贔屓ァけんつく(拳突)ゝらつて出入もならずそれッきりの縁の切れ。けふ[※5]ハ占子(しめこ)のうさぎ[※6]で薬喰い[※7]にありついたッてわけヨ。脂ッこいもんは佳しとしねへが江戸ッ子の性(しょう)だが、実正(ほん)の[※8]暑さのくるめえに力ァつけるが身のためトしとり(一人)屁理屈こねて洋刀(ナイフ)入れりやァさッくりト切れるカツレツ脂ッこさのねへ東京好み。やつぱり煉瓦屋さんは変わらねへや。腹にもたれぬ軽い揚げ方。腕ァ落ちてゐねへゼ。昼の茶ァ尾張甼(ちよう)[※9]の角にそゝりたつ硝子(びいどろ)のゝつぽ洋館にお店(たな)ァはる水茶屋の二階に陣どつて天下の大(おほ)四ツ辻[※10]見下ろして絶景かな\/ト銀延べ喜世留くらしやァ鳥渡(ちよいと)した伊達気分。その背に銀座の風うけ六丁目。天保八年からお店ァはるくのやの階上ゆかたの新柄みせてくんなト茶室に上がつて片貝木綿や小千谷ちゞみの色柄とりどり思案投げ首。夏らしくすゞやかな浅葱の縞こいつにしやしようかねえト決めかけて脇の太物にふと浮気の目。むこうから手をおだしと流し目くれた玄人好みの黒地にむらさきの細嶋大柄にあしらった小粋な反物。手に取りやァしゃりッとした麻の手ざわり。オヤおめえは小千谷かいト正札みりやァ太物値段。正体みせなト票をくりやァ綿麻混紡。鳥渡麻ァまぜるだけでこんなにも肌触りが軽くなるかト大鏡に立つて反物身にあてがつて眺めてみりやァまんざらでもねへ似合ひ方。こんならぢゞいのあつしにも着こなせやしようと仕立ェ頼んでハイさいならト並木通り。空也の暖簾(のうれん)くぐつて飛び込みで[※11]最中一折(ひとおり)買ひお世話さまと風にふかれて一丁目の骨董長屋。上下ぐるりと回つてけふの銀ぶら仕舞の巻。

【附(つけたり)】
[※1] 革色。暗い灰緑。革を染めるのに多くこの色が使われたところから、この色名がついた。守貞謾稿「菖蒲革。(略)鹿革を以て製之色黒緑也。今世江戸にて絹布の類に革色と云物流布す。即菖蒲革色也」
[※2] 勝色。褐色・搗色(かちいろ・かちんいろ)のこと。濃紺色、藍色の黒に見えるほど濃いもの。「かち」は「勝」に通じるとしてこの色を武家は好んだ。武田信玄の旗印風林火山の幟はこの色を地色としている。
[※3] 勝虫。トンボ、の意。トンボは後退できない虫であるために勇ましいとして武家に尊ばれ蜻蛉柄が好まれた。
[※4] ぐいづくり。急ぎ作り、の意。「ぐい」は急ぐことで、ぐい呑みはあおるように飲むために量が多く入る杯。
[※5] けふ。今日、の意。旧仮名遣い。
[※6] 占子(しめこ)のうさぎ。江戸語。語源不明。しめたッ、の意。
[※7] 薬喰い。獣肉を薬として食べる意。江戸時代の江戸の町にはももんぢいなどと看板を掲げて牡丹(いのしし肉)桜(馬肉)などを食べさせる店があり、主に仕事師(土方鳶火消)や駕篭舁(かごかき)など力仕事の者が食べた。
[※8] 実正(ほん)の。本当の、の意。
[※9] 尾張甼(ちよう)。現銀座4丁目を昭和の戦前生まれの東京ッ子はこう呼んだ。江戸時代、徳川尾張さまの屋敷があった。甼(ちよう)の字は町の字を崩して上下に重ねたもの。江戸の切絵図(地図)などに使われている。
[※10] 天下の大(おほ)四ツ辻。銀座4丁目交差点。和光、三越銀座店、日産、三愛ビルが向かい合う。
[※11] 飛び込みで。予約なしで、の意。

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コメント

麻混ですか~涼しそう。良いものに出会えましたね。私が先日着ていたのは伊勢もめんの単です。
ちょっとこれからは暑いかな。くのやの浴衣展、見に行こうかしら。

でも実は去年の秋口に仕立てて、まだ袖も通していない竺仙の籠染浴衣が箪笥に眠っています。
早く浴衣の季節にならないかしら。蛍を見に行くのが楽しみです~

moon3ふらか姐さん江

 お似合いでしたよ。伊勢もめんッてんですかい。よく見せていたゞきやァよかつた。残念なこといたしやしたなァ。
 くのやの四階にやァ久留米かすりながら粋な縞もでておりやしたし、鳴海しぼりだと思ふのもかざつてありやすゼ。ぜひ覗いてごらんなせへ。
 浴衣で蛍狩なんて絵になりやすナ。浴衣と旅がむすびついてンのがよござんすねえ。

 喜の字

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