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2010年1月 5日 (火)

虚白波天軸(うそしらなみてんのにじく)

Photo  時代おくれの天保暦(太陰太陽暦)ですごす江戸者だがァ新暦との付き合いも娑婆の義理。正月の寿(ことほぎ)の真似事にぢいさんゆずりの鶴の軸ゥ薄ッ床にかけるヲ仕来りにしてきやしたが、よる年波か大儀となりこの二年ばかし手抜きですごす西洋暦の新正月。思へば軸の函への防虫香もいつ入れたものやら思ひだしもできねへ。代々伝えてきたものをあつしの代で蟲の飯にしちやァ面目が立たねえト銀座の鳩居堂で買い求め、いざ軸函に投げ入れんと思へば、こりやァなんと。その函が煙のごとく消えてねえ。池辺に立つ雄鶴雌鶴の丹頂鶴。はてなト小首かしげて思案すりやァさらなる一軸寒汀の木(ぼく)に一羽とまりし鶺鴒図も消えてねえ。ハテ面妖な。
 思ひおこせば二年とひと月めえ。永の山隠暮らしの庵ひきはらい、残りの命ハ江戸ッ子修業と腹ァくゝって市隠になるべくお江戸へ舞もどってはきたものゝ、聞けば引越稼業の手を煩はせれば、火事場泥ならぬ引越泥を決め込まれることもなきにしにもあらずトの咄。その白波の早業かゝげもかたちもありやァしねへ。鶴の図描きしお絵師と鶺鴒のお絵師は野口幽谷の兄弟々子。ぢいさまハその鶴のお絵師の旦那衆の一人。そんな誼(よしみ)の二つの軸。盗まれたとあッちやァ分別盛りの倍の六十路半ばすぎとハお笑いの恥ィッつァらし。穴があったら入りてへ思ひ。狭いあばら家納戸の隅から隅まで引ッかきまわしそいでも軸函の半ぺらもでてこねへ。天窓(あたま。頭)ァひねッてゐる内に他にも消えたがある。有田深川製陶青磁染付掛分角皿二枚。こいつも引越泥の手にかゝったか。煙となったか霞と消えたかゝげもかたちもありやァしねへ。半日騒いでどふにもならず。仕方がねへト観念し町奉行にお畏れながらト訴えでるかと腹ァくゝり、腹ァしたゝめに支那蕎麦屋。嬶(かゝァ)いまァけえッたと破戸明けりやァおまいさんあったンだよト。なにあったト。そりやァ皿かト問へば軸だよ見てごらんそれらしいもんが天袋に。脚立々てるもゝどかしく、ふるえる足元背伸でのぞく天袋。オゝまごうことなき軸二本。むかしのしと(人)ハいゝこと言ふねえ。七度探して人を疑えッてネ。すまねへ引越屋のお兄哥お姐さん。あつしの早とちりに呆けヨ堪忍してくんねへ。よかった\/と安堵の胸ェさすったが、納戸探しの大家捜しでもついに姿隠したまゝの掛分角皿二枚。どっかでお見かけになられたら、達者でゐたぜとおせえておくんなさいナ。

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コメント

おっと、あたしも早とちりですぐ他人様を疑うもんで、耳が痛え。しかしなんだね、日ノ本じゃあ、正直もんが多いってえ事さ、めでてえめでてえ。
なに、年の暮れも押し迫ってくりゃ、師匠も走るは気は急くはで、ちいっと世の中を疑ってみたくもならあな。

なにしろサギってのが近頃ぁ多いからねえ。トキに爪のアカでも煎じて飲ませてえってくれえ、増えちまいやがって。
それもこれも、人を疑う事を知らねえ小金持が多いせいなんでしょうが、上方、それも大坂の年増なんざ引っかかるもんもいやしねえって噂で。
江戸は生き馬の目を抜くっていいやすが、財布のヒモはユルいのかもしれねえな。

なんにしろ、鶴が無事めっかってようござんした。
鳩屋の箱に入れて元日まで養生させてやっておくんなさい。

それにしても皿はどこへいったかねえ。
ツルカメはそれ仏壇に、ってえ落語はあったが、まさか井戸から出てくりゃすめえに。

moon3ねこじゃねえやいのお玉姐さん江

 やられたッて思つたときァあつしァ人を疑る気がまったくねへおいらがいけねへンだなァッておのれがいやになりやしたヨ。でもそいでしと(人)を見たら盗人と思ふやふになったら人間性(しよう)が悪くなりやすもんナ。マ仕方がねへおいらの間抜けよト観念したんだが、出てきてくれてうれしかったねえ。なんせてめえで買つたもんぢやァねへ。ぢいさまからの預かりもん。次の代へ渡すまでまもるがあつしの勤め。そんな風に思つておりやすんでネ。
 しかし皿ァどこへ姿ァ隠したか。井戸の中か水瓶か、神棚か。このどれもいまのあつしンちにやァねへとくらァ。

 喜の字

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