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2009年10月 8日 (木)

浜真砂鼻高恥郎(うきよにつきぬこうまんをとこ)

 蒟蒻(こんにゃく)本とも呼ばれる江戸の洒落本にはまり込んでおりやして。こいつゥ手にして寝床へ転がり込み、ぼんやり天窓(あたま)の霞が雲になるまで読みふけるのを無上のよろこびとしてる昨今でして。暇だねト言はれゝば一言もねへ隠居暮らし。世の為になるやふな甲斐性もござんせんものでして。マそこんとこ鳥渡(ちょいと)目ェつぶってゝいたゞいて、婦美車紫鹿子(ふみくるまむらさきかのこ)の一節を書き抜きやしたんで、ちょっくら読んでやんなせへ。鹿子の文ン字は偏に鹿、造りに子の字だが、こんなの電脳函にやァねへんで、並の鹿子で勘弁しちくんな。戯作者はたぶん浮世偏歴斎道郎苦先生サ。元本は安永三年ッてッからいまなじみの西暦で言やァ1774年、そんときに出た本ヨ。あっしの手にあるのハ中央公論社から出た大成本。そこからの抜き書きだ。
 品川宿の茶屋へ中年の生臭坊主が若い僧を連れて来てゐて、これからどこぞへ揚がろふッてとこなんだ。その生臭、若いの相手に吹くハ吹くハ。マこんな風ヨ。鳥渡(ちょいと)読みやすいよふに[ ]で細工いたしやしたゼ。
【年マ僧】おれがなじみの所は宿中(しゅくちう)がみんななしみた[馴染みだ]どの女郎(ぢよらう)や[屋]でもあがりだん[上がり段]おれが顔(かほ)がみへる[見える]と歌橋(かきやう)さんが来(き)なんしたと家内(かない)がさうにたつけれども今夜(こんや)はちと[一寸]ふう[風]をかへて[変えて]顔かくし[隠し]のずい行き[ずいと入る]おれがいつた[行った]ことをしる[知る]とこは色[役者の物真似]の長路(てうち)や八百彦(やをひこ)だ事の吾妻(あづま)だの三蝶(てう)だのとたのみもせぬにおはい\/をぬかすとやかましくて肝心(かんじん)のしつほり[しっぽり]遊びがだいなした[台無しだ]もう\/げいしや[芸者]や役者に近付(ちかづき)がおゝいと銭銀(ぜにかね)がいつてならねへ。
 この自慢咄を連れられてきた若い僧が真に受けて、【若僧】モシ其[その]三蝶とやらは浮世がいゝじやござりませぬか。生臭ます\/得意ヨ。鳥渡(ちょいと)なげへから、はしょる(端を折る)よ。【年マ僧】長歌(ながうた)なら露友(ろゆう)でも音蔵(おとぞう)でも市十郎て[で]も三味線(さみせん)なら金蔵六三喜三郎作十豊後(ぶんご)ならもぐさやでもいつきでも文字でも又若太夫でも儀太夫も人形(にんぎやう)つかひ[使い]もみんなしつてゐる[知っている]こわいろならこまでも八百(やを)でも十町魚楽(きよらく)三芝居(しばい)の太夫元を始(はじめ)のこらずくるから正(せう)じんの身ぶりをさせてみたがいゝ。
 トとゞまるとこをしらぬ自慢咄。茶屋の女将もあきれて皮肉サ。【女ぼう】モシあのおまへのとこへ八百蔵がまいりやすかへ。脇で聞いてた茶屋の若衆(わかいし)も、女将さんにそっと言ふ。【新介】モシおかみさんあのきやくは合点(がてん)のいかぬものでござりますト、そいでさらにあゝいう手合はいざ払いの段になると勤めがないなどと言ひ出すものだト注意する始末サ。勤めとは女郎の支払いヨ。
 とかく人ッてのハ生半可にかじったときがいけやせんねェ。知ったかぶりになって、お天下さまになりやすい。まして目下だの初(うぶ)だのを相手にすると、自分ほどの通はいねえト逆上(のぼ)せて、はたが笑ってンのもわかんなくなっちまう。そんな笑いもんの半可通を何百年もめえの洒落本でなんども書かれてゐるンだが、人間元来莫迦だから、いまだもってこの手合は跡(後)を絶えねへ。

  高慢屋浜の真砂ハつきるとも世に半可通の種は尽きまじ

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コメント

 半可通、笑止ですな。

moon3とん馬さん江

 さいですナ。

  喜の字

絶えねえどころか,あとから後から湧いて出まさあ。
あたしが証拠よ。

よく知らねえ話にはクビ突っ込まねえのが信条だったんでやすが、そうも言ってられねえ不思議な事情が最近出来やして。いちいち調べて生半可な返事するのが面倒なのなんのって。

何しろ知らない事に相づちうってるわけなんで,後で も少しわかってくると、昔の自分のセリフが恥ずかしいのなんのって。

しかしアレですな,一番恐いのがちょっとかじってわかったつもりの奴。掃いて捨てるほどいますがね。
客じゃあ正直に言って懲らしめるわけにもいかず。
幸せな人生送ってらっしゃいますなあ,で終わりになりやす。自分に自信がある奴あ,幸せですなあ。
ホンに羨ましいよ。

moon3ねこじゃねえやいのお玉姐さん江

 ほんに知ったかぶりの自慢屋が多くて。
>幸せな人生送ってらっしゃいますなあ,で終わりになりやす。自分に自信がある奴あ,幸せですなあ。
 この台詞はよござんすねえ。「ホンに羨ましいよ」とおっしゃる通りでさァ。

 喜の字

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