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2009年10月17日 (土)

【番外】道八来遠方(どうはちえんぽうよりきたる)

Photo  あっしのぢいさんは、思へば破格の人でやして。茶でもやろうとなると、まず茶室を先に建てちまふンだ。デ始めりやァご存じの通り茶は道具があれこれゐる世界。夏なら風炉、冬なら茶室に切った炉、釜もそれぞれ別ッこヨ。茶碗も黒楽、伊羅保(いらぼ)、井戸。この井戸が卅年のせえげつ(歳月)と二人の手をへめぐってあっしン処(とこ)に来た話は、めえにいたしやしたが、けふハその茶をやってたはずのぢいさんの煎茶の道具がまた\/同じ手同じ時をへてあっしン処にやって来たのヨ。咄しやァながくなるが、ぢいさんッて人はまァひらたく言やァ人から指図がましことを言はれるがでえッきれな質(たち)サ。さっきも言った通り茶ッてのハ道具建てが忙しあすび(遊び)だ。で、出入りの道具屋、旦那つぎはこのお道具、その次はあの道具ッて指図がましいことゥぬかすのが業腹、うるせへこのやらふッてんで抹茶はもふやめだ、こんどハ煎茶だとあっさり宗旨がえヨ。それでは旦那さんまず急須茶碗がなければ始まりませんッと、道具屋がさっそく担いで来たのが、たぶんこの煎茶器だらふ。ひっくりけえして高台の中ァ見りやァ道八とある。仁阿弥道八だ。何代目はわかんねへ。いまァあっしの手に渡ってきたこの道八を見るとおかしことがある。茶渋の薄染一つどこにも残っていねへ。てえことハぢいさんこれをいっぺんも使っていねへッてことよ。道具屋が持ち込んだこの道八が飽き足ンなかッたんだネ。その証(あかし)に、涼炉から急須、湯冷、茶碗、茶壺、布巾入にいたるまで一切合切揃いの煎茶道具があっしの手元に残ってゐる。三浦竹泉に焼かせ、松林桂月に染め付けで漢詩と絵付けをさしたもンだ。これも妙なとこがある。やっぱり茶渋の影せえねへ真ッさらもんヨ。そのうえ奇怪なのが、それだけの揃い道具なのに、肝腎の茶碗が一ツ足りずの四組ときてる。訳を知りてえがばあさんもおっかさんもとっくに川向ふへお引ッ越し。でも先比(頃)その謎がとけやしたのサ。この大揃いが出来上がって来たときァぢいさんもふ床について伏したまゝ。そいで一度も使わずに三途の川を渡っちまったッてことヨ。で、連合(つれあい)のばあさんが、茶碗の一ヶを棺桶に入れて持たせてやったトあっしやァ按じたッてわけだ。さっそく道八の茶碗で、毎朝決まりの茶を呑ませてもらいやした。不肖愚孫、及ばずながらの使手となって供養とせん。南無阿弥陀仏。

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