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2009年8月 6日 (木)

魂胆洒落草(はらづもりしゃれなぐさ)

 たばこトいやァ、いまぢやァ煙草と書かなきや手習指南所先生の御丸ハいたゞけねへご時世。答ハひとつッてェことだそふダ。いつからこんなけち臭へお国になッちまったンだい。コウ文科の大哥(あに)さんヨ。江戸の比(頃)の洒落本だの人情本なんぞくってみねへナ。烟草あり莨あり多葉粉ありヨ。どれだッてちやんと読めるのヨ。場にあわせ、文(ぶん)の風行きにあわせて、書き分け使いわけ。自在なもんヨ。あっしがいっちお目にかゝったンぢやァ多葉粉の文字ヨ。いゝ字面ぢやァありやせんかい。お気に入りヨ。この文ン字だから、多葉がなくて粉ばかり、なんて洒落も言へるのヨ。
 咄ァ変わるが、思へば三十路の丁度真ン中、ふとしたことをきっかけ、十七の元服ンときから馴れ親しんだその多葉粉、ぱったりやめて指折りかずえりや早卅(さんじゅう)余年のめぐる歳月。そんな清い生き方を鳥渡(ちょいと)狂わす古道具、覗いた縁が焼け棒杭、また立ちのぼる多葉粉の香り。武家の烟管(きせる)の銀造り[※1]。ふらりとゆらぐ水性[※2]の、またまた覗いた道具屋で、ばったり出会目ェ釘付けの、鼈甲羅宇(べっこうらう[※3])に意匠こらした銀細工、町人使いの女持(めもち)喜世留(きせる)。こふも誘ふ水があっちやァ、やめた多葉粉に復縁ねがい、一服やらずば、しようがあるめへヨ。
 ところで姐さん兄哥さん、多葉粉の三文字、こいつァどふ見ても洒落くせへ。粋の通のとあすびを競う、狂歌文人川柳大尽の洒落が命の文字使い。ト思ふがどっこい、大外れ。なんとあの大老井伊直弼が書き残した茶の湯心得、茶湯一会集(ちやのゆいちえしゆう)。そこに出てくるタバコの文ン字ハ烟草ト多葉粉の二文字。たとえば、待合腰懸の項、こんな具合ヨ。╶─╴烟草(たばこ)盆、上座の方に置く。またこふもある。╶─╴寄付小座敷あらば、掃ききよめ、多葉粉盆・火鉢をも改むる事也。
 こふしてみりやァ多葉粉の文ン字は、洒落者の専売にあらず。べらんめへのべの字さえ使ったことハねえだらふとご推察申しあげる大老さまもお使いたァ、お釈迦さまでもご存じなかったろうヨ。

【附(つけたり)】
[※1]武家の烟管(きせる)の銀造り。銀延べの煙管は武家だけに許されていた。
[※2]水性。浮気性、の意。
[※3]鼈甲羅宇(べっこうらう)。鼈甲柄の羅宇。羅宇は元々はラオスから渡来した竹で、この竹を煙管の真ん中の管とし、前後に火口と吸口を金属で設えた。町人はこの羅宇の煙管に定められていた。

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コメント

江戸の文化は世界有数のユーモアに溢れてたんですね~
学がなくっちゃ出来やせんし、頭が良いからって柔軟な思考とは限らないし日常に、『頭の体操』を持ち込んだ、面白れえ国だったんですね、、、、。

今の総理は変な『詞』ばかり言ってますから、コミック雑誌もいいが、こいいう本も読むといいんじゃあないですかね、、、、。

moon3牛込の中板兄哥江

 ほんにネ。洒落がわかんねへと相手にされなかったみてへですゼ。この世の苦労も洒落で受け流す。生き方がうまかったンだねエ。

 喜の字

ご無沙汰にありんす^^
あの銀のべの銀煙管はいかがなすったんで?
わっちは喉患いがますます酷くなってきてるってぇのに、未だに一日に1本は必ず意地でのんでますsmoking

誰が喉が痛ぇくれぇで辞められるかってんだ!(笑)

moon3絵付師の姐さん江

 持っておりやすヨ。けふハ浪人気分ッてときは銀延べをたばさんで、町人風情で風に柳で能天気ッてときハ鼈甲羅宇の銀喜世留と洒落ておりやすゼ。
 多少の喉痛も喜世留の一服ぐらいなら、喉もゆるしてくれやしょう。楽しみねへと生きててつまんねへもんネ。

 喜の字

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