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2009年7月14日 (火)

偽指切起請(うそなれどまことのあかし)

 ぬしさん江[※1]わちきハほんに惚れやした。残暑みぎりの秋七月[※2]。天保暦[※3]の八朔(はっさく[※4])を、まじかにひかえし文ひと筆。添えし小箱のなにやらと。胸おどらせて蓋ひらく。真綿色せし練絹を、そっと開けばあなおそろしき。小指一本色うしないて、いまハ賽の河原の石の色。えゝィしやらくせえ。こんなしん粉細工のしばや(芝居)で騙される、こちとら、そんぢよそこらのぢゞいとぢゞいがちがうンでェ。息巻きながらも姑息な啌(うそ)ォ、つく花魁のその啌ヲ、つかねばならぬ勤めの身。思やァ胸ふたがれて熱くなる。恋の色のゝ迷い道。表通りも裏路地も、早道脇道知り尽くし、おりやァいっちの通り者。手管ァぜんぶお見通し。わかっちやァいるが騙された、ふりしてとゞける黄金(こがね)のつゝみ。白無垢揃いの八朔紋日[※5]。日本橋本町通り越後屋で、みなに負けねへ仕掛け[※6]をこせえさせ、馴染みの敵娼(あいかた)仲の丁[※7]、居並ぶ雪の花の花にさす。しん粉細工の小指の一本。すっきり騙されてやるが、男の粋。見破ったなんぞト目鯨たてるハ野暮の骨頂ヨ。
 テなことで、江戸の吉原ぢやァ花魁が馴染みの客に起請代わりに指ィ切り落として贈ったそうですなァ。聞いたゞけでも、血の気がひくゼ。きび(気味)がわりィ(悪い)ッたらねへ。実正(ほんと)の指、毎度\/切ってたんぢやァたんなくなちまう。なんせ花魁の身一つに客あまた。そいでしん粉造りの出来合い指で算段。初会に行って指無花魁見たことハねへッてェ咄。洒落本禁現大福帳[※8]に、その造り方の種明かし。「しん粉をとくと練(でつち)て紅粉(かうふん)を以(もつ)て采色(いろどり)むらなく肉色(にくしき)といへるに染(そみ)し所を我季指(わがこゆひ)より少しちいさく[中略]禿(かぶろ[※9])の指(ゆび)を本として己指(わがゆひ)を以て筋(すじ)をうつし絹糸にて能程(よいほど)にて切(きる)也扨(さて)爪は鳶の羽(は)の根を割(わり)て水に浸す事独活(うど)の水中に反(そり)打ほどらいをよしとす是(これ)を爪形(つめなり)に挟(はさみ)てしん粉の和(やわ)らかなるうちに指込(さしこむ)事、トご丁寧なご指南。血ハ魚のを使へともある丁寧さ。これを誂える小間物売りがあるとも書いてある始末。指屋とでも腰高障子に墨文字黒々と招牌(かんばん。看板)にした職人がゐたかもしンねへナ。
 少しめえのこと、てれすこッてへ外題の活動写真ヲ観たッけ。勘三郎の小間物売りがきょん\/扮する品川女郎にどっさりしん粉指とゞけるくだりがありやした。映画の方々もこの禁現大福帳お読みかもしンねへ。お勉強ゥなすつておいでヨウ。世の中ばかにやァできやせんゼ。

【附(つけた)り】
[※1]ぬしさん江。主さん江。吉原で花魁を三度揚げると客は花魁にこう呼ばれ、箸袋に名が書かれる。花魁に限らず、目上の人には「江(ゑ)」、目下には「へ」と、使い分けしていたようである。
[※2]秋七月。旧暦では、一~三月が春、四~六月は夏、七~九月が秋、十~十二月が冬と整然と区切られていた。故に七月は秋である。今年の場合、旧暦の七月一日は新暦の8月20日に当たる。
[※3]天保暦。通称旧暦。太陰太陽暦。天保年代に幕府により、補正されたのでこうも呼ばれる。
[※4]八朔(はっさく)。旧暦八月一日(朔日)のこと。この日、吉原では花魁がこぞって白無垢の衣装に身を包んで勢揃いする仕来りがあった。
[※5]白無垢揃いの八朔紋日。上掲参照。物日、遊里では紋日の字をあてた。五節句などの祝日。その日ごとに花魁は妹女郎や禿たちの衣装などを新調する多大の出費を強いられ、それを馴染みの客に無心する苦労に追われた。
[※6]仕掛け。花魁の打掛などの衣装をこう呼んだ。
[※7]仲の丁。仲之町。吉原を代表する中心の通り。江戸では、町方の町は丁、武家町には町の字をあてることが多かったからか、このように表記している文献がかなりある。
[※8]禁現大福帳。洒落本。牙琴作。宝暦五(1755)年正月、江戸燕屋弥七/岡本坊刊。
[※9]禿(かぶろ)。花魁につきしたがい、身の回りの世話をする女童。

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コメント

喜三二様

江戸の時代に喜三二様がいらしたら、送られた小指で山が出来ていそうですね。

宛名の時に用います「江(ゑ)」と「へ」に当時は、そのような使い分けがされていたなんて驚きました。何とはなしに「江(ゑ)」という書き方には、現代でしたら芸の道に携わっていらっしゃる方へ宛てるイメージがありました。

私、茶楽子は喜三二様の豊かな知識と素敵なお召し物、お茶目心をお忘れにならない手拭いを拝見しながら、いつもお教え下さる事ばかり。
お教え下さったことは忘れません。
感謝致します。

茶楽子の居場所は今月二十日の月曜に、急な話ですけれど無くなることになりました。

いままで、本当にありがとうございます。

これからは、こちらに私が喜三二様にお会いしに参ります。

宜しくお願いします。

moon3茶楽子姐さん江

 実正(ほんと)ですかい。驚きやした。いゝ見世から暖簾を畳んでしまうンですよねェ。銀座でほっとできるいゝ処だったんですがェ。ほんに残念だねえ。
 あっしの此処へまた気楽に寄っておくんなさいナ。待っておりやすよ。

 お名残惜しい 喜の字

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