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2009年4月16日 (木)

和蘭陀勘定(やぼはおよしよ)

 こないだの花見ンときに兄貴分と咄してゝ、銀座裏にむかしあった蕎麦屋のことになったンだ。兄分とあっしァ一緒の宮仕えしてた仲なんだが、そんとき昼に腹ァつくりによく行った見世がそれヨ。古い構えの蕎麦屋でサ。見世と釜場との間に半畳ばかしの帳場がしつらえてある。そこにいつも明治生れの婆さんが座ってンだ。漱石だったら、明治で売れ残って大正で店晒しになったなんて悪口言ひそうだヨ。その婆さんがいつも猫ォ抱いてゝネ。それを言ったら、兄哥(あにィ)もすぐ思ひだして「あの勘定のできねえ婆さんねッてのヨ。あれ、こりァ洒落言ッてンのかなッて思ッたゼ。商(あきない)やってゝ勘定できねえのが帳場ァ座ってちァ商売になんねえ。そりァねへよナ。そしたら兄哥がサ。「割り勘でッて言ふと、あの婆さんいッつも怒ってたぢァねえかッてのヨ。それよ、あっしもいまその咄ィしようと思ったとこヨ。そいで、こっちァいつも申しわけねへッてこゝろもちになッちまッてさァとネ。あっしァしがねえお店もんだ。いくたンびに、一人でみんなの分請け負ってちァ懐がもたねえし、第一たがひに横並びの身。連れ立ッちァゐるが子分手下(てか)でなし。あっし同様の奴(やっこ)ヨ。そんな仲で誰か一人が「コウけふハおれにまかせとけ、なんて言やァ出過ぎた野郎だぜッてことにならァ。だからいッつも一人\/「狸そばいくら、とか「俺ハおかめなんて、しまらねえことォ言って並ぶもんで、婆さんガぢれて怒るのヨ。「なんだい、いゝ若いもんが、誰かゞまとめて払いナってネ。そりァ婆さん、分かってンのヨ。でもサ。それができねえのサ。すまねえなッてネ。あっしァ婆さんの言ひてえこたァ百も承知ヨ。だがサ。二十年もたったいまァ兄貴分とたま\/咄てみて、まったく勘ちげへしてた人もゐたンだなァってことが分かったッてえことヨ。婆さんが言ひたかったッてえことハ和蘭陀(おらんだ)勘定なんて野暮な真似ェすンぢァねえよッてことサ。こゝハ下町銀座だよッてネ。割り勘なんて、和蘭陀か兵隊のやること。銀座の町ッ子のやるこッちァねえよッてことなんだが、兄哥だってそんなに遠くの田舎出ぢァねえ。礼儀だから生れハこっちから訊いたこたァねへが、どこそことか言ってたがそんなにお江戸から離れたとこぢァねえようだった。訛もねへし。そんなこんなで忘れちまったが、春の塵除外套(ダスターコート)なんぞハわざ\/日本橋の丸善で買うようなお人だし、田舎\/した人ぢァねえンだが、そいでも婆さんがあっしらわけえ(若い)もんに野暮ハおやめッてえ思ひで言ってくれてるンが分かってゐなかったンだってのハ正直言ってあっしァおどろきだったねェ。江戸に三代生れ育たねえト江戸ッ子にァなれねえッて言ひやすが、やっぱりそうなんだねェ。野暮と粋との境目なんぞハ糸ォ張ってあるわけぢァねへから分からねえト言やァ分からねえ。そこんとこが、こりァ粋だな、こいつァ野暮だなッてスッと嗅ぎ分けらンなきァいけねえ。教わンなくてもできるよふになんねえといけねえ。もっとも教わってゞきるようなもんでもねえけどネ。サテあっしァできてンのかねえ。そいつが分かンねえのヨ。ま、だから修業ッてことだネ。

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コメント

勘定が出来ねえなら、ひとりっつのが助かるってモンよ。

あたしなんぞ自慢じゃねえが暗算が出来ねえから、合計も危ういってのに消費税だのお心付けが入ってきちゃ、もうお終えさ。

だからやっぱりそのしとはわかってなかったんでしょうな。誰かがまとめてすっと払って、あとで割り勘にするなり何なりしろというのが当たりだと思いやすぜ。
銀座でいい男になれるよう客に教えるのも苦労だね。

moon3ねこじゃねえやいのお玉姐さん江

 あっしァ自慢ぢァねえが餓鬼のときにおッかさんにむりやり珠算の塾いかされてねエ。七級のお免状いただきやしたヨ。いっち下の級だ。暗算もできねえ。まして銭金の勘定ハ体が受け付けねえ。へんなとこが侍の末裔なんだネ。

 ほんにサ。やっぱり兄哥ハ分かってなかったンだ。ちょいと悲しい気にもなりやしたヨ。いゝとこある人だけにネ。洒落ッ気てえのハまた別なんでやしょうネ。
 粋にやるッてのハ難しいもンねェ。まとめて払っても、跡(後)でオイみんな銭出せッて言へねえもんネ。その性分見透かされてゝ、あっしァずいぶん餌食になりやしたもん。

  喜の字

わざとじゃねえが、仲間と飲みに行って、勘定時分に厠に立って帰ってみると、もうすっかり済んじまってて、しかも誰にも異存がねえようでびっくりした事があったっけなあ。

女は得なんだなあ、と思ったぜ。
それならそうと、はなっからおせえてくれなかった親を恨んだもんよ。もっとも、あの母親あ荷物も自分でオッチラかつぐし、椅子引かれるのなんざ待っちゃいねえし、知らなかったってのが真相かもしれねえな。

moon3ねこじゃねえやいのお玉姐さん江

 そふいう勘定の払い方ァいっち粋だねえ。
 接待ンときなんかもそれヨ。お客の目のめえで金ェ払ったンぢァ客も居心地がわりィや。ひでえのになるト客ゥ一緒に帳場に立たしたもゝ受取おくんなゝんて言ってる野暮がゐるもんねえ。こんなのハ接待が仇になっちまうゼ。相手さんが気ィきかして厠ァ立ってるのに鈍なやつヨ。

 おッかさんもかんげえてんのヨ。そんな手ェおせえると、あたしァもてたンだよッて自慢してるみてえで、娘にァ言えねえヤ。

 喜の字

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