【番外】花より団子の巻<十七>川柳ひとり柳戯溜(やなぎざる)
花落ちて 餅ヲ包まン 土手ざくら
むかしァなかった桜橋で大川わたりァ向島の土手ヨ。この橋ァ花見に行くにァもってこいだねえ。こいつのねえ比(頃)にァ吾妻橋か言問橋わたンなきァなかったンだ。江戸のむかしにァこの辺(へん)に竹屋の渡しッてンで便利してたッてえ咄だ。桜橋のいゝのハ人ッきりわたれねえとこだネ。車がわたるとうるさくッてしょうがねえ。吾妻橋ァめえにァ車だけぢァねえヨ。都電もわたってたもんネ。がたぴし騒がしいやネ。
向島の土手、洒落てンだかどうだか知らねえが、墨堤なんて言ふネ。こういう漢語風ッてのハ偉ぶった明治なんかに増えたが、これもその口かも知れねえ。その墨堤を上(かみ)ィ鳥渡(ちょいと)歩くと土手下からいゝ香りヨ。ご存じさくら餅だゼ。長命寺の寺男が桜の葉を塩漬けにしといて、そいで餡入りの餅ィ巻いたッてんで、江戸の比ッから名物ヨ。屋号はたしか山本。こゝは一ツの餅をさんめえ(三枚)の葉ッぱで巻く大盤振る舞いヨ。並の桜餅ァ葉ッぱ一枚だゼ。これだけでも江戸ッ子の気前のよさが分かるッてもんヨ。どうでえおどろいたか、なんてネ。なんでも鼻高々になっちまふのが江戸ッ子のおっちょこちょいヨ。しょうがねえゼ。堪忍しな。
でサァ、名物だもんで、こゝで茶ァもらってさくら餅喰いてえだろふ。ところがどっこいだ。あわてる乞食ハもらいが少なえッてやつヨ。鳥渡(ちょいと)先ィ見な。言問団子があンのヨ。どっちィ喰ってどっちィ土産にするかッてんだ。そこが思案のしどころだヨ。
団子喰ひ いざ言問はン 勘定ハ
で、あっしァ見世で腰ィ落ち着けて喰ふのハ言問団子にしたッてえわけヨ。長命寺のさくら餅ハ手土産に包んでもらってネ。お楽しみァ九尺店(くしゃくだな)にけえって渋茶相手にてえ寸法ヨ。団子は三色。小豆、白あん、黄色。串にァ刺してねえヨ。きれいに丸めてあるンだ。そいつが皿にのって出てくる。お茶ハけっこう奢ッてンだよネ。こういう茶店みてえな見世ハでがらしが多いが、オッこりァいけるネって旨さだヨ。まず小豆餡から喰ふ。甘さが軽くていゝねえ。お次の番だよ、白あんさんッてネ。黄色ハ珍しいンでこいつゥ最後にとっといたンだが、黒文字で真ン中から真ッ二ツと思ったらそれが切れねえのヨ。白玉粉だッてえが、腰があるねえ。うれしいねえ。ハリがあっていゝヤ。噛むッてえト鳥渡はねッけえしてくるよふなとこがあッてネ。それがいゝねえ。黄の色ハくちなし染め。中ァ味噌餡だヨ。さっぱりしてゝ〆に喰ふにァお誂え向きだったゼ。うもうござんしたヨ。いゝ気分だねえ。土手の桜は風まかせッてネ。こりァ柳だったか。欲言やァ長命寺が吾妻橋近くにあってくれりャあ、桜餅と団子との二品(ふたしな)が喰えるッてとこなんだがねエ。たがいに近過ぎるのが難だゼ。
【附(つけた)り】
長命寺さくら餅 http://www.wagashi.or.jp/tokyo/shop/1413.htm
言問団子 http://www.kototoidango.co.jp/


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