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2009年2月28日 (土)

【其の二】たそがれ清兵衛異聞

 このめえ(前)ハあらすじみてえなもんを書いたが、江戸をかじったもんとしちぁ腑に落ちねえことがまだありやしてネ。それがけっこう本筋にからむとこなんで、そいつゥ鳥渡(ちょいと)させてもらいやしょうか。
 そりァ果合(はたしあひ)ヨ。清兵衛の幼馴染で想ひよせる朋江ッてえ武家の出戻りがおりやしてネ。そこに酒乱のめえの亭主が暴れこんで来る。朋江ァ宮沢りえが演じてるンだが、その控目なかんじがいゝねえ。あっしァ贔屓しちまうヨ。ちか比(頃)お茶屋の女房やってなさるが、ぞっこんだゼ。咄ァずれちまったが、その朋江の兄が間にへえッてなだめるンだが、相手は高祿の武士でいばりちらす。腕に覚えがある清兵衛が取り押さえて帰すのサ。そいつァァ顔を潰されたト遺恨を持ち、果合を申し込んで来るッてえわけダ。
 そいで、その果合の場サ。それがまた絵になるンだねえ。鳥の目(俯瞰)で上から撮ってンだが、左のたけえ(高い)とっからすゥッとミごとに組まれた石垣の角(かど)線が下がっておりやしてねえ。少し広い地べたがあって、その右にァ巾二三間の浅い川が流れてンだ。川にァ石垣も土手もねえ。たゞ地べたがそこんとこだけ自然とへこんでゝ浅い水がせゝらぎのやふになって流れるッてあんべえ(按配)サ。いゝとこミッけたねェ。こういう場ァ探すのハてえへんだヨ。今日び、この景色だけでも涙もんヨ。
 こゝで、清兵衛が小太刀の代りのぼッきれ(棒ッ切れ)で、真剣の相手を打ち負かす。見事な殺陣(たて)だゼ。清兵衛役の真田広之が足を払ってくる相手の太刀をぱッと飛び上がって除け、ぼッきれで撃ち込むのサ。躰ができてる役者ァ絵になるねえ。ト感心ばっかしゝてらんねえンだ。敵にァ二人ほど見届役みてえのがついてる。朋江の兄ァ相手から果合をしたことが洩れねえかト案ずるンだが、清兵衛はナニ負けた方は恥になるから向うから洩れる気遣いはねえト安堵させるンだ。だが、そいつがじきに知れて、たそがれッて小馬鹿にしてた清兵衛がなか\/の遣手(つかいて)ト家中(かちゅう)の評判になッちまうのサ。そいでいて、上役から下問がねえンだ。おかしいぜ、こいつァ。果合なんてのハご法度のはずヨ。お咎めどころか、なんの問質(とひたゞし)もねえ。暢気な家中だねェ。
 どこの家中でも果合なんて勝手にやっていゝとこなんぞありァしねえト思ふゼ。そんなことさせてたら、負けた方がこんどハ仇討ッてンで、そのうち家中の侍が殺しあってゐなくなッちまァワ。果合ッてのハそれッくれえ大事なのに、そいつヲこともあろうにお城の石垣の下でやッちまうンだから、べらぼうだゼ。申込む方も受けて立つ方も、家名断絶を承知でやったにしてもお上ィはゞかって人の目につかねえ原ッぱか森ン中でやるもんだろう。武家のくせにはゞかるッて分別がねえッてのもあきれた盆暗だヨ。
 そいで、めえに書いた方につながるンだが、清兵衛が上意討にいく朝、ぼんやりの中間を走らせて想ひよせるその朋江を呼び寄せるンだ。その気持ァあっしでもわかるネ。まかり間違えば逢えねえかもしれねえからネ。そんで、支度ゥ手伝ってくれッてわけダ。そしたらなんと朋江が、清兵衛の乱れた後毛(おくれげ)を櫛でなでつけるンだねえ。これにァあきれたゼ。清兵衛ハふだん陸(ろく)に髪の手入もしねえような不精もんなんだ。これから死地に立つ士(さむらひ)ならば、汚い恰好で死恥をさらしァ末代まで笑者ヨ。だから、元結(もっとひ)ヲ切って髪を梳いて、髷を結い直してやるくれえ当りめえのことだろう。支度を終えて出立する清兵衛の姿ァ見たらなんと、裁着袴(たッつけばかま)に襷掛(たすきがけ)、その上に羽織ッて姿ヨ。額に鉢巻し、腰に大小二本。さすがにぼッきれハ持ってねえ。こんな支度なら人の手ェいらねえ。どんなにぼんやりッだってえ、中間が一人ゐるンだ。手ハあるはずヨ。清兵衛は袴一ツてめえで穿けねえのかねえ。そんなこたァねえだろう。相変わらず月代も髭も不精の三分伸び。なんだろうねえ。あっしァ情けねえヨ。清兵衛役の真田広之がぢャねえよ、勘ちげえされット困るゼ。せっかく宮沢りえの朋江を呼んでやったンだ。髪ィ梳かせるくれえの仕事させてやらァいゝぢァありやせんかい。そうすりァ送る方も送られる方もこれが別れト腹ァくゝる涙の場ヨ。門発つ清兵衛にァ二人の役人が付添ンだが、どうして上意で出立するのに兵力の一人であるはずの中間がついていかねえのかねェ。そういうもんなのかねェ。中間てのハいつでも主の共をするもんなんぢァねえのかねえ。
 マこんなことあんなこと、いろ\/あってサ。この活動写真が、けふハこれきりト終わッちまった跡(後)で、あっしァ思ったネ。
  啌(うそ)ハ実正(ほんとう)のような面ァしてあらわれ、実正(ほんと)は啌みてえにして語られるッてネ。古くは大本営発表で騙され、いまァねずみ講でだまされ続けてらァ。
 それにしても誰もがゐるはずァねえト判っていても笑って涙流して観てた寅さんで人の真を描いておくんなすったこの活動写真の棟梁さんが、なんでこうしたもんつくろうッて思われたンでやしょうかねえ。あっしァわかんねえヨ。観る方も気ィつけなきァいけねえネ。活動や戯作で騙されてるうちァまだ可愛いが、もっとおッきなとこで騙されッてかもしれねえゼ。用心\/。

   啌ばなし 実正(ほんと)のように やってくる

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コメント

朋江の酒乱の亭主と清兵衛が対峙するお城の横の河原は、うちの嫁の故郷・上田でロケされたようですが、嫁をもってしても、どこかわからぬと申しておりました。
ところで、あの場面。
酒乱の亭主演じる大杉漣の左手の薬指に指輪がついてなかったですかい?
わっしゃ、そればかりが気になって。
江戸時代に結婚指輪……大杉哥ぃが本番で抜き忘れたか、わっしの見間違えか?

moon3ひぐちの兄哥江

 ロケ地探しッてのハたいしたもんですねェ。土地の人も気づいてゐねえようなとこ見つけだすンですねェ。そういう点ぢァあの映画はほんとに見応えありやすヨ。

 指輪まぢァはっきりわかりやせんでしたが、倒れて腕をのばしたとき、なんか変な感じがちらッとしたのをいまでも憶えておりやすヨ。なんかゞ妙だったンですワ。指輪はだったのかもしれやせんナ。

 どの役者さんだったか忘れやしたが、テレビのトーク番組だかなんかで、食い込むような結婚指輪してる人がおりやしてネ。このお方ァ役者根性がねえなァと思ひやしたねえ。眼鏡の跡が鼻の両脇だけならず、こめかみにも蔓の跡がついてゐる役者さんもゐますもんネ。

 反対のもおりやすナ。森繁のことを時代考証家の林義一が、著作の中で怒っておりやしたナ。咄にならねえわがままだッてネ。「四十七人の刺客」の映画で、家老の役でちょいと出るンだが、いつもの髭をつけたままなんですナ。剃ってねえ。江戸時代にァ幕府の命で髭は禁止されたンですワ。戦国の蛮風だとしてネ。黙認されたのハ建前として日本人扱いからは除外されてる坊主と医者。それ以外でハと町人の年寄ですナ。ですから家老の役ででるなら、剃り落とさなければならねえわけでして。
 水戸黄門は越後の縮緬問屋の隠居ッてことになってンで髭は黙認ッてえことになりやすネ。

  喜の字 

『たそがれ清兵衛』ようござんしたね!! 

>角館ですかァ。いゝとこが残ってゐるンですねえ。感心いたしやしたヨ。
 門構に祿高が出ておりやしたネ。五十石取りの清兵衛の家の門ハ、上に横木を渡した造り。千五百石だか千石の上司のお屋敷の門ハ両脇の柱だけで、それをつなぐ横木がなく上が空いておりやした。清兵衛は小者一人を持つ徒(かち)の者、上司は厩を持ちいざッてえときハ乗馬で槍持を従えて城へ向かわなければならねえ与力以上の者ト見えやした。左右の柱をつなぐ横木が上にあっちァそれはできやせんもんナ。
 そうしたことをちゃんと分けて撮ってンのがうれしいねえ。<

そいうところも目がイクってえのは流石あにさん、勉強になりやす。

『侍のドキュメンタリー』を観てるような自然な感じがあってお気に入りの映画でございます。
しかし一生一大事の時にあの身なりはいただけやせんね、、、。
乞つ食じゃあないんだから、、、。

ラストサムライでも真田さんは出てきましたが、あれだけの場面で勿体ないと思いやしたね、、、。
イイ役者におなりになって(感涙)
東野英二郎の『水戸黄門』で旅がらすの兄さんに渡哲也、そして子役に真田さんが出てました。
いや~芸歴は長いんですな、ほんと!
子供の時から今のお顔をしてました。
時代考証を真面目にやると今まで刷り込まれた『時代劇』の感覚が違和感を訴えるんですかね、、。
やっぱり江戸のことを勉強して楽しむのが上等ですね~

moon3牛込の兄哥江

元気そうでよござんした。あっしァこゝんとこの低気圧のせいかな、腰痛に泣いておりやすヨ。そろそろおもかえびとだゼ。

たそがれの跡(後)、鬼の爪隠し剣を観たンだ。そしたらやっぱり三十石取の旦那が出仕するンだが、ぬかるみでネ。枋だか赤樫の差歯の下駄で行くンだ。役所の門のめえで、お供の小者が雪駄を差し出すし、主は敷居のめえでそれに履きかえるのヨ。お城内は下駄でからころ歩いちァいけねえようでネ。草履取の中間は、そっから中へハ入れねえ。主が下がってくッまで、雨が降っても雪が降っても風が吹いても、そこに片膝ついて待ってなきァなんねえ。上は黒地に白の釘抜紋の法被いちめえ。下は六尺褌一本ヨ。夏冬その形(なり)ヨ。そいで,奴の尻ァ寒晒しッて小馬鹿にしたのサ。
 いまもむかしもお勤めは楽ぢァねえが、むかしァそいつゥ意地で通して男ォ磨いたネ。いまァなに磨くのかねえ。磨くもんなんかありァしねえじでえだゼ。

  喜の字 

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