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2009年1月22日 (木)

出会丹前冬伊達(であいのたんぜんかんのだて)

 まいンち着物で過ごすようにしてるトやわらかもんばっかしッてえわけにも懐がゆるさねえ。しょうがねえから羊毛(うーる)の長着でもいちめえ手に入れてしのぐかッてンで、浅草ァ奥山のちどり屋のゝうれん(暖簾)をくゞりやしたのヨ。ご亭主にそんなわけでッて言ふと、こんなんハいかゞッて三四(さんし)めえ(枚)棚から下ろして広げておくんなすった。男もんッてえとゞうも薩摩絣風の亀甲が多いネ。そんならあっしァ幕末生まれのじい(祖父)さんの薩摩があるから、風ハいらねへ。ト真ッ向から言ったンぢァ店主に身も蓋もねえ無礼。あっしとしちァ欲しいハ縞ヨ。羊毛ッたって粋に決めてえわナ。ありやせんかねェって頼むト縞ハうちは多ございやしてト懸けてあった一めえを衣紋竹から外しておくれサ。紺地に白の極細の縞。きりッと締まっていゝぢァござんせんかい。歳ァとったどっから見てもぢゞいだが、ちったァ男ッぷりがあがろうッてもんですゼ。で、旦那さん、これ、懸けといたら焼けちまいやしてッてのヨ。どこがッてよく見ても鳥渡(ちょいと)わからねへ。手ざわも羊毛にしちァなめらかヨ。縦糸が絹で緯糸が羊毛。なるほど手ざわりが軽い。亭主は二万七千両の札ァ指さし、二万しいて(引いて)七千両でいかゞでしょうト思い切りのよさ。これに応えなきャ男がすたろうッてもんサ。よし来たと引き受けたッてわけサ。そしたら敵もあきんど(商人)だねェ。この客あまいぞト見たか、それとも縞狂いと見たかハわかんねえが、こんな面白ひもんもございやすがッてひっぱり出して見せたのが、なんと今日び珍品、丹前ヨ。袷の間に真綿仕込んだ、あれだ。いまぢァ舞台の上か銀幕の雨ン中へでもいかなきァ拝めねえッて代物(しろもの)だ。手を通してねえ物で新古品ッてェもんでしてッて能書付ヨ。こいつがまたいゝ縞なんだねェ。困るヨ。鼠の地に紺と茶の極細縞。鳥渡(ちょいと)遠目にァ灰色に見えるが、寄って見りァ凝った縞ッてえ趣向だ。粋ぢァねえかい。表地はお召し。裏地もおごってるヨ。藍も紫一歩手前の手間のかかった染。裏地だけでも高直(こうじき)物だゼ。丹前と言やァ江戸ぢァどてらが馴染みの呼名。あっしの餓鬼時ぶんにァ親父なんぞが着てたが、もっと綿も厚く柄も野暮たいもんだッたねえ。こりァ寒さしのぎにもってこいだゼ、そいぢァ一緒にもらってゆきやしょうト合点承知の介の二つ返事で引き取ッちまったッて次第サ。
 丹前とくりァ勝山ヨ。そりァなんだト問われそうだが、勝山知らなきャ困るヨ。吉原花魁の道中の足の運びを気ッ風が売りの江戸風に変えた勇肌(いさみはだ)の姐さんぢァありやせんかい。江戸は松平丹後守邸のめえに風呂屋があって、そこの湯女に滅法界気ッ風のいゝのがゐたのヨ。それが勝山、えらい人気サ。集まる輩たちの間で扮異なる綿入袷が時花(はや)った。そいだもんで、その形(なり)を丹前風と呼び、その一風変わった威勢のいゝ詞つきを丹前詞ッて江戸の世間ぢァ呼んだト言ふゼ。歌舞伎で観客沸かす六方ッてのがそれ。で、大見得切るような詞づかいを六方詞とも言ふわけサ。
 吉原ハ幕府の公許だが、湯女で春売るは許されねえ。勝山ハとらわれ吉原の勤めにだされた。罰で吉原へ送りこまれて花魁になれるのハゐねえが、勝山だきァ別格だったンだねェ。だが、勝気の勝山ヨ。めえからの花魁の風にァしたがわねえ。それまでの吉原の太夫花魁は公家風を模したもンさ。道中の足の運びは内八文字。そんななよ\/女々しいのハ男気ッ風の江戸にァ似合わねえト勝山ァあの高下駄を外へ蹴りだす八文字、外八文字で道中して見せたのヨ。これが受けたネ。そいからッてもん、吉原ぢァ外八文字が習ひヨ。江戸ぢァ女々しい女ハ似合わねえ。侠(きゃん)で意気がいゝのが江戸女ッてやつサ。
 丹前いちめえ、長話になッちまったねえ。けふの咄ァこれきり。ぢャあばよ。

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コメント

旦那、いい買い物をなさったじゃありませんか。
縞も丹前も、わかるお方に着てもらえれば本望というものでござんすよ。

昔からのあこがれが、粋な縞を着こなして、長火鉢でキセルをポンっ。櫛巻の色っぽい年増だとなお良い・・・とはいえ、真似できるのは「年増」ンとこだっけてお粗末で。

縞なら何でもいいってわけじゃござんせん。そうはいっても対ふらふらと引き寄せられてくようなのは黄金積まなきゃこちとらのもとになんか来てくれやしません。

しかも生まれついての大女、手長足長ときちゃあ、化けもんの仲間入り。昔の尺で出来てる反物じゃあ、つんつるてんでございます。広小路で出る分にはかまやしませんが、堅気のおかみさんがそれじゃあ、裏長屋のわびしさでいっぱい。

で、目を付けたのが男物。もっとも、上着並みに引っ掛けてうちの中で着るんでもなきゃ、男装どころか男にしきゃ見えねえってのが悲しい所。

どうしましょう、師匠。
何かいい知恵でもございますかえ?

moon3ねこじゃねえやいのお玉姐さん江

 近い内に写真のせるから、縞の按配を見ておくんな。しかしなんだゼ。ちか比(頃)ァ見上げるような姐さんたちァ多ござんすから、反物も鳥渡(ちょいと)様子が変わってきてるンぢァござんせんかい。
 喜世留ッて言やァこないだちっとばッかし乙粋なのめっけてネ。道具は買わねえつもりだったンだが、ぐらッときていけねえヤ。銀と四分一との流し分けッて凝りものヨ。女持ちだから華奢で、そこがまた造作の加減がよくってネ。
 これも写真でご披露するかッて思っておりやすンで、待ってゝおくんなせえナ。

 喜の字

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