無料ブログはココログ

« 百隠居惚千両蛤(ひゃくいんきょのろけのせんりょうきしめん) | トップページ | 【番外】〈十三〉川柳ひとり柳戯溜(やなぎざる) »

2008年12月28日 (日)

【番外】〈十二〉川柳ひとり柳戯溜(やなぎざる)

   いっぺんハ 吸いつけ多葉粉(たばこ) 呑みたやな

 吉原の大見世行くッてえと、花魁ッてえ錦の鳳凰[※1]のような仕懸(しかけ[※2])着たお女郎がゐたそうですなァ。この辺の位になると、長屋のばけべそとおンなじ女たァ思えやせんナ。天女だのお公家のおひいさまッてのが、江戸の大門(おほもん)の中へ舞い降りたンぢァねえかと思ふくれえ奇麗だったそうですな。そいでまた、上品どころか口なぞまったくきかねえ。挨拶だってしてくんねえ。こっちァお客だヨ。払うンは銭ぢァねえ、お金。お金ッてのハ金(きん)のことだからネ。いまみてえに紙ッ切れに一万円なんて書いてあんのとハ分けが違うンだ。小判だヨ。よっぽど腕のいゝでえく(大工)だってひと月汗水流して働いたって、もらった銭貯めて小判に替えたってたった一枚になるかどうかッてえ十露盤(そろばん)だってンだ。そいつゥ一年分の十二三枚持って行ったッて一晩のあすび(遊び)に足りるかたりねえかダ。もっとも法被のでえく風情ぢァ大見世ハ登楼(あが)らせてくんねえけどネ。そいでもそんな思ひして登楼っても、初会ぢァ口もきいてくんねえどころか、目も合わせてもらえねか。まったく眼中になしッてあしらいだ。それが二度目になるト客が実のあるとこ見せたッてんで裏をけえしたッてことになる。そうすっとあの澄ましてた花魁が二三寸、こっちィ寄って座ってくれる。うまくすりァ朱羅宇(らう)の長烟管に煙草詰めて火を点けひと口吸い、その吸口を袂で拭いて「主さん一服おしなんしなんて差し出してくれるのヨ。もう天にも昇る気分だゼ。これが吸いつけ煙草。これをおしいたゞいたりしちァ、無態ヨ。鷹揚にうなずいてふんわりと吹かす。こういかなきァ遊びが遊びになんねえもんナ。そんなお大尽ごっこ、お江戸の大店の若旦那に生れかわってやってみてえもんだねェ。

【附(つけた)り】
[※1]鳳凰。吉原の総格子の大店などでは、花魁の席の後の壁に豪華絢爛極彩色の鳳凰図が大きく丸におさめるように描かれており、花魁は鳳凰の位であることを示していた。信州小布施の寺の天井画として現存する北斎の筆による鳳凰図は吉原の遊女屋に描かれていたそれと酷似している。
[※2]仕懸(しかけ)。裲襠(うちかけ、かいどり)など、花魁のきらびやかな衣装のこと。吉原語。

   銀延の 喜世留(きせる)通人 気取りなり

 江戸の比(頃)ッてのハ、決まりがいろ\/ありやしたが、そいつァ世をはゞかって遠慮するッてのが元にあるからなんで、言われて引っ込むようなけちくせえ根性ぢァなくって、てめえの方で一歩ひいて世間にはばからねえようにしたもんですワ。金があるからいゝ、買えるンだからいゝッてえ無遠慮は江戸の町ぢァ奴(やっこ)とかカッペッて後指さゝれやすナ。それこそ野暮ッてやつで。身分不相応ほどこそ身の程知らず恥ずかしこたァござんせんもんネ。それが烟管にもちゃんとあったそうですナ。金(きん)はそれこそお上を憚って持たねえ。銀延べのものハ士(さむらい)、町人は雁首と吸口との間を羅宇でつないだものト決まってゐたッて聞きやすネ。馬子駕篭かきハ豆烟管トだいたい相場が決まっておりやしたナ。そんなことで、町人の大通が気障に銀延の烟管誂え、そいつゥ得意になって上ェ向けて吸ってみねえナ。それこそ脂下がるッてやつヨ。烟管ン中ァ脂がたれ下がってきて、口がひん曲がるゼ。ざまァみやがれッ脂下がりやがってッてえやつサ。なんでもこの世は身分相応にしておきなッてネ。

« 百隠居惚千両蛤(ひゃくいんきょのろけのせんりょうきしめん) | トップページ | 【番外】〈十三〉川柳ひとり柳戯溜(やなぎざる) »

コメント

言葉以上に色っぽい所作は、お客も粋じゃないないと野暮天がバレてしみますね。

お江戸の煙管とは別ですが、洋画で見た女優さんの煙管にうっとりしたものです。
されに、カルティエの20世紀はじめのころの作品の展示会で、珊瑚にプラチナなんてものを見たときは、手袋をした手でこんな煙管を持ってみたいと妄想しましたねーーー。

海の向こうもこちらも、粋にもなれば野暮にもなる、大人の小道具なのですね。

                               
身を焦がす げんじぼたるか 煙草の火

傾城の差し出す吸いつけ煙草の火が
火種になって通っちまうのかねえ

moon3風知草姐さん江

 往年のハリウッド映画の主演女優が、黒くストレートで長いシガレットホルダーで煙草をくゆらすなんてシーンがよくありやしたねェ。
 男優だとハンフリー・ボガードが主演した「三つ数えろ」や「マルタの鷹」の中で、吸いさしの煙草を指で弾き飛ばすように捨てるかっこのいゝ所作が印象に残りやしたもんで。
 ちか比(頃)は日本の時代劇でも、烟管を使う場面は見ませんなァ。なんだか淋しいもんでして。

  喜の字

moon3仇吉姐さん江

 粋な川柳だねェ。姐さん、あすん(遊ん)でンね。並ぢァ詠めねえヨ。

 電気のいまとハちがい、蝋燭二三本ともした部屋で花魁からやさしい詞で差し出される吸いつけ煙草の赤い小さな火ハ、胸に残りやしたでしょうなァ。
 やっぱり通ッちまうンだろうなァ。そんな煙草吸ったら。蔵の一つも潰すくれえぢァねへといっちょめえ(一丁前)の通人にァなれねへッてんだから恐いヨ。
 てえことハ貧乏人は所詮どこまでいっても野暮から抜け出れねえヤ。安堵していゝのか、嘆くべきか。そこが思案のしどころヨ。

 喜ンの字

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/127972/26560933

この記事へのトラックバック一覧です: 【番外】〈十二〉川柳ひとり柳戯溜(やなぎざる):

« 百隠居惚千両蛤(ひゃくいんきょのろけのせんりょうきしめん) | トップページ | 【番外】〈十三〉川柳ひとり柳戯溜(やなぎざる) »

最近のトラックバック

2017年1月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31