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2008年10月 9日 (木)

【番外】川柳ひとり柳戯溜(やなぎざる)(八)

   仲の町 ハはいらぬと 染井吉野
                                                 これから冬に向ふッてのに、時期外れの間抜けな咄なんだが、いまァ桜ッて言やァ染井吉野が通り相場。猫も杓子もそれでなきァよろこばねえ。それまでの桜ッて言やァまず葉で出て、それから花が咲いたもんサ。山桜ハその口だゼ。そいだもんで、口のわりいやつァ出ッ歯とッつかめえて山桜なんてからかいやがッてネ。鼻より先に歯が出てるからだとヨ。染井吉野ッてえ桜はご存じの通りヨ。葉は花が散ってからヨ。はなァ花ばっかしサ。葉はいちめえも出ねへうちに花だけ咲くから、見事ぢャねえか。こいつァ幕末から明治にかけての比(頃)、駒込の染井村の植木職人の誰だったかゞ懸け合せでつくりだしたもんだッてネ。
 なんでそんなことしたか。こいつァあっしの当て推量だが、吉原だネ。そこが裏にあるナ。吉原の大門(おほもん)へえると仲の町。この通りが真ん中を真ッつぐのびておりやすが、こゝに毎年花の咲いた桜をわざ\/植えて花の並木をこせえたのヨ。花ァ散りャあ、引ッこ抜いて捨てちまふ。この豪気さが、いかにもぢァねへか。そいできっと気のきいた植木屋がかんげえたンだネ。葉はいらねえ、花だけつける桜ァできねえものかトね。染井は植木の村の名、吉野は桜の名所のお名を鳥渡(ちょいと)拝借したッて寸法だそうですゼ。「ハはいらぬ、のハは、葉と端を懸けたのサ。なんてッたッて、仲の町はその名の通り、真ン中の町だもんナ。

   いまはなし こはだの酢〆 喰いたきや

  あっしァ餓鬼じぶん本所の隅ッこ住んでおりやしてネ。三軒ばっかし隣に惣菜屋があったのヨ。そこの見世のビードロの蓋ァつけた琺瑯(ほうろふ)の箱ン中にァあの銀色に墨の点々打ったこはだの酢〆がきれいに並んで光っておりやしてサ。そこに真ッ黄色の粟の実が散らしてあるッて造りヨ。目がさめるようだゼ。あの美しさァまぶたに焼きついていまだもって消えねヘヨ。だがヨ。あっしのおっかさんハ光もんは大の字付のおきらいヨ。そんだもんで、あっしァ喰わず嫌いになってちまってネ。この歳になって鮨屋で初夏にこはだを摘むと、あゝ人生半分損したッて気になりやすのサ。
 惣菜屋だがネ。毎度の飯のおかずゥ家でつくらずに買って済ますッてのハ江戸からの習いヨ。江戸の比ァもっと便利サ。毎朝振り売りが連尺肩に長屋の路地の奥まで売りに来たッてから、暮らすにァ俎(まないた)も包丁もいらねへ。味噌汁なんぞ、具の刻み葱なんか練り込んだ味噌ォ玉にして売りに来たッてえからありがた山(やま)だゼ。碗ン中にそいつゥ放りこんで熱い湯ゥぶッかけてひっかきまわしァ一丁上がりヨ。
 そんな朝のどさくさが過ぎて亭主ァ帳場へ出かけちまッて長屋が静まるトこんどは、こはだの酢〆を売りに来るッて段取りサ。これが若い優男が売り子ト相場が決まっておりやしてネ。そいつが椹(さわら)の白木の箱を肩に担いで、「こはだの酢ゥゥゥなんて新内みてえに細い澄んだ呼び声の尻ッ尾ォながァく引っ張りやがッてネ。そゝるわけヨ。九尺店(だな)のお上さんハその声聞くともうたまんないヨ。泳ぐように下駄ァつッかけて油障子戸引き開けて、「ちょいとおにいさん待っておくれ。素通りァつれないヨ。なんてネ。その宵の亭主の箱膳にこはだの酢〆がのったかどうかハあっしァしらねへ。そこまぢァものゝ本にも書いてねへ。ぢァ、あばよ。

  喜の字

【附(つけた)り】
(※)振り売り。天秤棒の前後に籠や箱などを釣下げ、それに商品を入れて売り歩く商売。野菜、納豆、豆腐、浅蜊、蜆などを売った。同じく天秤棒で担いで売り歩くのでも、魚屋だけはぼて振りと呼んだ。
(※)連尺(れんじゃく)。天秤棒のこと。振り売りの小商いがまとまって住んでいたところが神田連雀町などである。
(※)帳場。大工や左官などが、仕事の現場をこう呼んだ。

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コメント

かなりヤボな話にふってしまいますが、
「みつくろって持って来て頂戴」。母や祖母は魚屋さんにそう電話してました。
むかしの女性は今よりなんでも出来た訳じゃなくて、だれになにを頼むのか知ってたし、プロがちゃんと機能してたように思います。

「みつくろう」。
これは文明の利器が出来ないことですもの。
さらに「みつくろう」のが若い優男では・・・ねぇーー

小肌。子供のころはあの文様がダメでした。シャコもワニみたいでダメでした。
今は大好きですぅ。

moon3風知草姐さん江

 みつくろう、なんて気のきいたことできる若い衆はいまァおりやせんでしょうねえ。若い衆だけぢァねへね。りっぱな大人だって山出しが多いから気遣いでできねへのばっかりヨ。
 しゃこァちょいとみ不気味だネ。でも玉子ォ腹に抱えてゐるときァ滅法界珍味だねェ。あっしァ好きだネ。

  喜の字

おや、また消えてら(笑)

あっしゃ光り物が好きでね、しかし寿司屋でそればっかり頼むわけにもいくめえ、かといってあぶらっこい魚をはじめに食べんのはどうか、なんぞと呻吟してしまう馬鹿でござんす。

貝も好きだが、初手っからそんなものが叩きのめされたり包丁入れられんのを眺めるのもどうかと・・・。

で、シジミ汁すすりながら、毎度どうしたものか考えるわけで。

こっちにもレトルトのネギ入りみそ玉はありやすが、売り手がやぼでござんして。

なんだね、朝起きるってえと、振り売りがくるは、小引き出しから煮豆だのがでてくるは、ってえ世界に住みたいもんだよ。ずいぶん便利じゃあないかえ。


moon3ねこじゃねえやいのお玉姐さん江

  なァに姐さん、それが真ッとうサ。はなに脂ッこいねたァ喰ったら、舌が莫迦になッちまって白身や貝だのゝ味ァわかんなくならァ。だからでやしょうヨ、青身魚のこはだァ酢で〆て脂ッ気抜くのハ。ところがちか比(頃)、脂ッこいのがうめえなんて味のわかんねへ山出しがテレビィ出て、脂がのってゝ大層うめえなんて妙ちきりんのことォのたまうから、もっと物がわかんねへのがそれェ見て、脂だらけが旨いだと早とちりしやがってなんでも脂あぶらヨ。アラブの王さまぢァねへッてえの。
 あっしも貝は大の字つきの好物ヨ。赤貝のあの歯ごたえなんぞ、たまンねえネ。でも姐さんの言ふとおりだゼ。貝開いてその身ィまないたに叩きつけるのヲ初手に見たンぢァなんか赤貝の祟りがありそうだからナ。
 しかしあっしァ思ふのヨ。鮨ァ、客と職人の真剣勝負ヨ。鮨ァねたごとに味わいが変りやしょう。微妙なその差ァ味わうにァ酒ェ呑んだり、しゃべくッてたりしていちァわからねえ。気ィ入れて喰ふがいゝぢァねえかとネ。

 ねた入り味噌玉、売手が野暮ッてのも、いっそおもしれえンぢァござんせんかい。野暮と粋の差なんて一寸もあるかないかわかんねえが、そんなとこに命かける莫迦ァあっしら江戸もんぐれえぢァござんせんか。それを思ふと、古川柳思ひだしやすゼ。

  やぼにしてゐる事だよと通なやつ

通ぶった半可通よりいっそ野暮の方がいゝッてわけだ。

スーパーなんて屁の河童だねえ。江戸の町ァ二百年がとこ進んでいたゼ。あっしもまわりがみんな町ッ子の下町ィ行って住みてえ。いまのドヤは東京たァ名ばかりのドゐなかだからからッきしさァ。

喜ンの字

 旨そうな噺にゃ思わず身ィ乗り出しちまう。

 時々寄らせてもらう見世の板さんが「刺身に一番のつまは銀シャリじゃないかな」とねっ。
 寿司好きのあたしにゃうなずくばかりだが、コハダや〆鯖食べるとやっぱり欲しくなるでしょう?旦那。
口ン中にぱあっと広がって、なおも旨いもの!
 
 実でも良し 呑んでなお良し ぎんの粒

 さて、始めますかねぇ 月が見えないのが残念だけどさ。

moon3仇吉姐さん江

 刺身ァ銀シャリで喰ふから合うッてのは、言えてるなァ。赤飯ときァ刺身に箸が出ねえもんナ。
 それに、魚の脂ァ落とす工夫をむかしッから味の分かった人はしてるよナ。鯖なんか凄い脂だもんな、〆るわけヨ。トロにくらべりァ脂なんかねえかと思ふような赤身だって醤油のズケでさっぱりとさせやすし、さっぱりの極みみてえな平目だって酢で拭いた昆布で〆ていよ\/さっぱりさせやすもんナ。江戸ッ子にとっちァ脂ッぽいのハ野暮なのサ。
 江戸の本読んでット出てきやすゼ。目刺しで酒ェやってるとそこに来た奴に、そんな脂ッこいもんで酒呑むもんぢァねえッてさげすまされるッて咄がネ。
 米は確かに姐さんの言ふとおりだゼ。飯にして佳、酒にして佳だ。いゝ国に生れたゼ。政治はよくねえが。

 喜ンの字

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