無料ブログはココログ

« 嘉永店新内落語双日(おほしにせしんないとはなしのふたひ) | トップページ | 【番外】川柳ごっこいたしやせんかい »

2008年8月 7日 (木)

大江戸化物先生(わらわせやしよう)

 お江戸ご府内を乾(いぬゐ[※1])にではずれた練馬の在、草よりいで草に沈む月の入る山の端(は)さへなき武蔵野にその名も武蔵大学ありッてわけだ。校門をへえりァ、江戸好ミの大欅並木[※2]。並木ッたってェこゝぢァ蕎麦ァ[※3]やってねへヨ。あの並木ァ赤松だ。なんの咄かわかんねへやつにァわかんねえでいゝンだが、そこのでっけえ教室へのこ\/行ったとおぼしめせ。文月(七月)二日(新暦8月2日)、七ツ時ぶん。秋の二日目と言ったッて残暑ざかり。蝉も鳴き疲れて鳴りィひそめてるッてもんヨ。
  世の中変人が多いッてことハあっしもその口だから先刻ご存じなんだが、こんどばッかしァ並ぢァねへヨ。どんなお人かァとくとご拝見ッて気もあって、暑さものともせずにのしたッてことヨ。外題は、江戸の楽しい妖怪、商品としての妖怪と来ましたヨ。講釈なさるンは、阿溜池蒲ッ戸(あだむ・かばっと[※4])先生。亜米利加生まれの亜米利加人だッて言ふからおもしれえ。あっしァ江戸にのめりこんぢァおりやすが、妖怪化物のたぐいハあまり馴染みがねへンだが、さて、いってえぜんてえどんなお咄になるか、お楽しみ\/で幕が上がりやした。
  お出ましになったのは、歳の比(ころ[※5])なら分別ざかりの中年ざかり。生れは紐育(にゅーよーく)州の1954年。日本におこしになって三十年。本郷赤門大学の大学院で博士課程。いまぢァこの山の端さへなきの教授さま。ご本もたくさんお書きですゼ。「ももんがあ対見越入道-江戸の化物たち[※6]、「江戸滑稽化物尽くし[※7]、「妖怪草紙-くずし字入門[※8]。校注の仕事ぢァ「大江戸化物細見[※9]、「江戸化物草紙[※10]。はるばる異国へ来ての化物三昧。見上げたもんだよ屋根やのなんとかなんて茶化したら、大目玉喰らひそうだゼ。
 でだ、なんのお咄かッてえと、なんだゼ。日本に来るめえは、日本ッて国は侘だの寂だのッて世界だと思ってゐたッて言ふのヨ。最初にデッ喰わしたンが源氏物語だッてェから間違いヨ。そいで日本にァ笑ひはねへト思ひこんぢまったンだから、困ッちまうぢァねへか。浮世床[※11]だの遊子方言(ゆうしほうげん[※12])、はたまた春色梅児譽美(しゅんしょくうめごよみ[※13])辺(へん)からへえりァいゝものを。そうすりァ日本のお江戸にァ笑ひも色もあふれてるッてことがわかったものをサ。もっともそうしたら、化物探しなんかに行かねへで、緋の腰巻[※14]ひもといて色の道へ迷いこんでたかもしれねへナ。人間どこで道が変わるかわからねへ。剣呑\/ト。
 箱根山からこっちッてのハお江戸のことなんだが、そのお江戸にァ化物と野暮はゐねへッてむかしから言ひやすが、蒲ッ戸先生ハそこんとこにずいぶん力ァ入れてご説明サ。このお江戸こそ人間の住む場所で大通(だいつう[※15])の住処だと、江戸の町ッ子ハ考えていたとネ。箱根から向ふ、西ァだめヨってネ。あっちァ江戸ッ子にとっちァこの世ぢァねへようなもんだと思ってゐたンじァねえかと。そんでもって、化物ハあっちにゐるとか野暮ハそっちにゐるとかッて詞になるんだらふッて按配サ。源氏物語の書かれたやふな平安の比ァ物の怪(け)ッて言って目にァミえねへおそろしいもんだが、江戸ッ子たちが考え出した化物ァ目に見えるもので、あっしらが使う釜だの莨盆(たばこぼん)だのが化物になるッてわけヨ。むかしから言ひやしたよネ。物はでえじにしなきァいけねへって。ぞんざいや邪険に扱うッてえと、祟られるのヨ。そうした考え方が、化物を考え出したンぢァねへですかい。化物ッてのハそのまんまの文ン字だもんな。物が化けるサ。
 それにしても江戸の町ッ子たちァ洒落が好きでやしたよねェ。深刻ぶった俳諧ハ野暮、思わずにゃッとさせる川柳の方が巧者。和歌だってそうでやしょう。江戸半ばからうしろァ幅をきかせたンは狂歌だもんナ。上等ぶってたり侘寂だの生きる苦悩なんか詠むやつァ野暮よッてネ。そんな気ッ風が笑える化物生んだンぢァねへかネ。あっしァ蒲ッ戸先生の咄ィ聴いてゝそう合点しやしたゼ。そのてっぺんが豆腐小僧ヨ。こついァ先生が上々大吉つける化物サ。菅笠かぶった小僧が皿の上に豆腐のっけて持ってくるだけなんだ。ご愛嬌に足の指はけもの風に書いてありやすがネ。たゞそれだけのことヨ。なんの悪さするわけでなし。なんの芸があるわけでなし。たゞ豆腐持って立ってる。その豆腐落っことされると泣いちゃったりするンだから、だらしのねえ化物なんだが、そこが味噌だネ。笑いの相手なんだ。言ってみりァ無芸の幇間ミてえなもんで、なんの役にも立たねえのサ。なんとなく座敷にやってきて、困ってそこにゐるだけなんだ。その様が可笑しいッてみんなで笑っちャうッてやつなんだらふナ。
 だがヨ、この豆腐小僧、江戸のお人たちァどっから考え出したンだとあっしが不思議に思ひだしたときに、先生おもむろに机の下から引ッ張りだしたもんがあるのヨ。こいつが、茶運びの機関(からくり)人形サ。見たことありやしょう。たわめた鯨の髭だかゞもどる力で茶托に茶碗をのせてお客ンとこまで運ぶ人形ヨ。それェ見せられてあっしァ、ハヽァんときやしたネ。江戸の洒落好きァ茶碗を運んでくるンはまだ役に立つだけで面白くねへ。こいつに茶碗のかわりに豆腐ゥ運ばせたら、大笑いだろふッてネ。そいぢァ元の茶運びの人形はどっから考えた。そいつァあっしが思ふにァ東北の座敷わらしが元ぢァねえのかね。座敷わらしァなんも悪さァしねへといふ。たゞ現れるだけとネ。そいぢァ無駄だから、そいつにお茶ァ運ばせたらお客ァびっくりするだろふッて寸法でつくったのがあの人形ぢァありやせんかネ。そんな風に一本つながって結句(けっく[※16])、なんの役にも立たねえけど可笑しいッて豆腐小僧が出来上がったンぢァありやんかい、ねェ蒲ッ戸先生。

【附(つけた)り】
[※1]乾(いぬゐ)。西北の方角。
[※2]江戸好ミの大欅並木。総欅造りの家の造作は江戸好みと言われた。家を建てると子孫のために後に欅を植えた。欅は250年ほど生育したものが梁にするには最適で、材にしてからの耐久性も同等の年数もつと言われる。
[※3]並木ッたってェこゝぢァ蕎麦ァ。東京藪蕎麦御三家と呼ばれるその一軒が並木藪。浅草雷門前にあり、その地は江戸当時松並木があり並木丁(町)と呼ばれていた。
[※4]阿溜池蒲ッ戸(あだむ・かばっと)。当て字。ダム=溜池、蒲焼の蒲=カバ。
[※5]比(ころ)。頃、の意。江戸の文献では比の表記多し。
[※6]「ももんがあ対見越入道-江戸の化物たち」講談社
[※7]「江戸滑稽化物尽くし」講談社選書メチエ
[※8]「妖怪草紙-くずし字入門」柏書房
[※9]「大江戸化物細見」小学館
[※10]「江戸化物草紙」小学館
[※11]浮世床。式亭三馬作。成立、文化十一年(1814)か。滑稽本
[※12]遊子方言(ゆうしほうげん)。田舎老人多田爺作。成立、明和七年(1770)以前。洒落本。
[※13]春色梅児譽美(しゅんしょくうめごよみ)。恋川春町作。初編巻之一、天保三年(1832)。人情本。
[※14]緋の腰巻。玄人女が絞めた。素人は白布。腰巻もかつては褌と称された。
[※15]大通(だいつう)。通の頂点に立つ人々。蔵前の札差を主とし、十八大通(十八人の大通人)が名高い。
[※16]結句(けっく)。結局、の意。

« 嘉永店新内落語双日(おほしにせしんないとはなしのふたひ) | トップページ | 【番外】川柳ごっこいたしやせんかい »

コメント

座敷で遊んでる 座敷わらしにお茶運ばせて、それだけじゃ何だってんで 豆腐もたせる? どっちが化け物かね、、ははは

泣いちゃうでしょ。子供なんだから。

豆腐小僧・・・・特に人に悪さをするわけでもないし、豆腐を持ってウロウロするだけなんて、不思議な妖怪だと思っていました。

・・・・なるほど!茶運び人形からの発想って説はうなづけますね。

以前、夜遅くまで仕事をしていた時のことです。ひと休みしに階下に下りて行って、軽く飲み物を飲んでいる姿を家族に見つけられて、「座敷わらしかと思った」と言われたことがあります。(笑
座っていたのは座敷じゃなくてダイニングだったのですけど・・・・。(笑

moon3ぱら姐さん江

 どうも読み手ッてえか見手ハ大人みてえですゼ。化物の嫁取りなんかの咄ィありますし、遣手婆の化けもんが出てきたりしやすからねェ。
 大人が堂々とあすんでたッてえのが、江戸のえらいとこだとあっしァ思ひやすネ。切羽詰まって余裕のねへいまのじでえ、見習はねへといけねえかもしれやせんねェ。

 喜ンの字

moon3ひよこ姐さん江

 ついに座敷わらしにおなりでしたかい。
 思い込んだご家族ァ驚いたでやしょうねェ。

 しかしなんですナ。江戸のご先祖さんたちァなんてあすびごころがあったンでしょうかねェ。あっしたち、いまの人間もモ少しのんきになんねへといけやせんねェ。

 喜ンの字

あだむ・かばっと の当て字にしろ 
 だぢゃれにしろ、日本の言葉遊びの奥深さッ鱈ないですよねぇ★

こちとら万葉集から掛詞であすんでんですからね。 
 妖怪だって 自然にあるものへ根ざしたモンですし なんてったって愛嬌たっぷり・・・

一見意味のなさそな笑いが たまらなく愛しかったりします。


 

moon3ひとみうぢ姐さん江

鱈ハいゝねェ。この暑いさかりにァ雪の字みせてもらやあ、涼しくなるッてもんヨ。ありがた山だヨ。
お江戸の洒落てのハ、百年二百年かけてみがきあげたもんだからネ。ちょいと渋いンだよネ。
掛け詞だって粋なもんサ。まともに言ッちァ野暮だよッてことでやしょうねェ。源氏物語ン中で、ある姫が歌を詠むンだが、その歌を見たまゝでございますッて地の文で批評してンだ。真ッちょうめんから詠むのは野暮なんだよネ。ひとひねりしなきァ面白くねへ。で、曲(きょく)がねへッて言ふようでやすゼ。

あっしァほんに日本人に生れてよかったヨ 喜ンの字

お江戸の妖怪とか化けもんは西洋のに比べて、何かおかしい感じがしますな~
豆腐小僧ですかい、ただ突っ立ってる、、、何だか期待はずれな野郎でおかしいですな、まったく。
想像するに『この豆腐、崩しちゃあいけねえ、、じっと立ってるしかない、、』ってえパニック起こしちゃってる感じが致しますな。
『わ!』なんておどかしちゃうってえと、泣きながら『なんか妖怪、、、』なんて、、、(^^)

moon3牛込の鯔背兄哥(あにぃ)江

 うんうん、そうだ。動くと豆腐が壊れるッてんで、黙って立ってンだ。謎がとけやしたゼ。だから豆腐取り上げると泣いちゃうンだ。
 こんど蒲ッ戸先生に会うことがあったら、おせえてやろう。

 喜ンの字

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/127972/22850018

この記事へのトラックバック一覧です: 大江戸化物先生(わらわせやしよう):

« 嘉永店新内落語双日(おほしにせしんないとはなしのふたひ) | トップページ | 【番外】川柳ごっこいたしやせんかい »

最近のトラックバック

2017年1月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31