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2008年8月 5日 (火)

嘉永店新内落語双日(おほしにせしんないとはなしのふたひ)

 江戸四宿(しゝゅく[※1])、中仙道[※2]は板橋を抜けりァやがて赤塚。江戸ン比(頃)お閻魔さまの寺で知られた乗蓮寺。権現さまから十石の朱印地をもらったッてえ格式ある寺。八代将軍吉宗ンときにァ、鷹狩のお休処にご指定された由緒ある寺。いまぢァ東京大仏ッてえ日本で三体目にでっけえ仏がそびえてゐるなんぞ、おめえさん知らねへだろう。あっしも前は知らなかったのヨ。だがよ、飼ってた猫が早死してサ。ねんごろに弔ッてやろうッてわけだ。火葬場が荒川の方にあるッてんで落語の黄金餅ぢァねえが運んで行くときにめえ通って知ってサ。そいで成仏をお願いしたのがご縁ヨ。咄ァ横丁ばいりしちまったが、その赤塚の街道筋に平成のいまも大木の並木が申し訳ていどに残っておりやして、そこに嘉永六年からあきなってるッて呉服商がありやすのサ。屋号は白瀧[※3]。水無月(六月)廿四日(新暦7月26日[土])、新内を聴かせてやろふッてご深切で、七ツ時分に伺ったと思ひねえ。座敷ゑ[※4]へえるとぷんといゝ香りヨ。青畳だぜえ。今日日(けふび)畳のねへ家があるッてご時世に、ありがたえ振舞いヨ。縁側の向ふにァ築山を三重(みえ)に築いた庭の眺め。そいつがまた今出来ぢァねへ。一代二代で仕上がる安普請の庭ぢァねへヨ。聞きァこのお店(たな)ァ嘉永六年の見世開き。指折りかずえりャなんと百四十五年ヨ。よくぞ代々浮気もせずに継いでおいでト天窓(あたま。頭)ァ下がったネ。
 やがて遠くからひっそりとした三味の音。そいつがゆっくり近づいて来る。廊下伝ひに三味線を引きながらゆっくりやって来たのは、けふの演者、柳家小春姐さん。ヨッ、お待ちかねッてネ。絽の黒紋付きに引詰め髪がさっぱりとしていっそ色ッぽいゼ。流しながら弾いて来てくれたのは、ご存じ新内流し。あっしァ思はず目頭熱くなりやしたゼ。喉元に熱いもんが突き上げてね。これヨ、この世界だゼ、あっしが欲しかったのハ。庭を背に小春姐さんの座が決まると、弾き語りで聴かせてくれたンは、これまたご存じ浦里時次郎の明烏夢泡雪(あけがらすゆめのあわゆき)[※5]。「きのふの花はけふの夢、いまは我が身につまされて、勤めする身のままならず、添われぬふたりが身の上。下(げ)の巻、雪責め。そっくり締めくゝりまで。「浦里は胸をすえ、死ぬると覚悟きわめし身の上、さァ一緒と、手を取り一足飛び、互いに目を閉じひト思ひ、ひらりと飛ぶかと見し夢は、さめてあとなく明烏、後の噂や残るらん。しんみりしたいゝ時が青畳の座敷に流れておりやしたねェ。あっしァ目ェつぶってたっぷり聴かせてもらいやしたヨ。ところが小春姐さんも大判振る舞い。中入りの跡ァお召し物も新作浴衣にお召し替え。趣向を変えて、端唄都々逸さのさで陽気に盛り上げてくだすった。ありがてえねェ。これでまた明日おいでッてンだ。明日ァ古今亭志ん輔の咄だ。
 よく廿五ンちは、あっしもお召し替え。越後上布の絣に赤紫の絽帯のきのふの形(なり)を、けふハ同じく越後上布の刈安色に替え帯ハ小豆の麻の西陣を〆てのお訪ねサ。お座敷の席も改まっておりやしたヨ。庭を横手に、床の間前にハ六曲一双金屏風。緋毛氈で高座を造り厚座布団。客にァ麻の夏座布団。露払いに前座さんが一話でご機嫌を取り、真打ち志ん輔師は小言幸兵衛[※6]。明るく笑わせてお中入り。一息入れて、白地に青の弁慶格子の手拭を茶に替えてのお出ましヨ。〆は子は鎹(かすがい)[※7]。鳥渡(ちょいと)しんみりさせてのお開き。いゝ双日(ふつか)でやしたねェ。

【附(つけた)り】
[※1]江戸四宿。江戸府外に設けられた街道の第一番目の四つの宿場。東海道は品川。甲州街道は新宿。日光奥州街道は千住。中仙道が板橋。
[※2]中仙道。現在は中山道と表記されている。
[※3]白瀧。http://www.kimono-shirataki.com/main.html
[※4]ゑ。江戸の頃は、目上に対しては「ゑ(江)」を用い、目下には「へ」と使い分けていたと言われる。芸人が色紙に○○さま江と書くのはそれからきた風習と思われる。
[※5]明烏夢泡雪(あけがらすゆめのあわゆき)。
[※6]小言幸兵衛。落語の題名。店子に毎朝小言言って歩くのを楽しみにしている大家の落し話。
[※7]子は鎹(かすがい)。酒でしくじった棟梁が、我が子が縁で別れた女房と縒りを戻す人情噺。

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コメント

白瀧、ホームページを拝見しました。新内や落語の会に惹かれて足を運んでも、その舞台の呉服屋さんにオベベ好きは魂うばわれそう・・(笑)。

新内のかたの絽の黒紋付!着物姿の美しさは夏にとどめをさすように思います。

そして喜三二さまの越後上布のお姿、想像してため息ついてますぅ。

moon3風知草姐さん江

 ありがたふさん。けえりに番頭さんの目もきらりと光りやしたが、長居は無用と早々に引き上げやしたゼ。お客は女子衆(おなごし)ばっかし。品揃えはそっち向きなんで、あっしァまあ逃げきれたッてとこですかね。
 奥に通される客になるにァ大変なこと。こんな機会でもなけりァ呉服屋さんの奥座敷だの丹精された庭なんか拝見できやせんもんねえ。

 逃げ足自慢 喜ンの字
 
 

なんとも乙な趣向で・・・。

島もんにゃ縁のねえ世界だが、三味の音を思い描くだけで、心の臓がきゅーっとなりまさあ。

呉服屋の奥座敷で、ちょいと踏める中年増の常磐津の師匠なんぞを侍らせて、反物えらみをしてみたいねえ。おっと、こちとらも女だったか。それなら手代か番頭の渋い男前のを侍らせて・・・。

猫さんは、主さんに負けずに彼岸で楽しく暮らしているんでしょうねえ。

moon3ねこじゃねえやいのお玉姐さん江

 なか\/乙粋でやしょう。よかったねェ。そいでなんにも買わずにハイあばよトしちまったのが気が引けてなんねえのヨ。苦しい身は世間に不義理すらァ。
 番頭手代もなんだが、五代目がまだ若くて狙い目だヨ。姐さん、一丁足ィ伸ばしちァどうかネ。

 猫介はねェ。恋女房と目ン中に入れても痛くなかったよふに猫ッ可愛がりに可愛がった雄の餓鬼を一匹残しての彼岸行きでやしたからねェ。思ひがこっちィ残ってゐるかもしれねへトあっしァ踏んでンでさァ。

 喜ンの字

そりゃあ心残りだったでしょうねえ、猫介さんも。
それにしても猫がネコッかわいがりする子猫なんてなあ、よほどの美猫、愛らしかったんでしょうなあ。

ああ、猫が欲しいねえ。


後のことを考えると、呉服屋は敷居が高くっていけねえ。若旦那を侍らす甲斐性も欲しいが、猫を侍らす方がいいか・・・。

moon3ねこじゃねえやいのお玉姐さん江

 いやァ、猫ッたって莫迦にぁできねえゼ。あんなにてめえの子どもかみさんを可愛がるの見たら、あっしァ後ろめたい気がいたしやしたもんネ。
 ちか比(頃)ァべらぼうな野郎女郎(めろう)がまいンちみてえに刃傷ざたを起こしておりやすが、ちったァ死んじまったあっしンとこの猫介の爪の垢ァ煎じてのんだがいゝンだ。あっしも少しァ呑まねえといけねへが。

 呉服屋さんは蟻地獄ヨ。うっかりへえると出らんねへもんネ。ご用心、ご用心サ。確かに若旦那侍らすより、猫ォ侍らしておいた方が揉めなくッていゝ。ト考える分別も鳥渡(ちょいと)寂しいヨ。お楽しみは悪所にありッてネ。
 おもしろい事を女はもちころしッて川柳があるッて杉浦の日向子師が、本の中で書いてたゼ。

 喜ンの字

そりゃぁ、よい思いをなさった二夜でしたのね。
新内なんて何年聴いていないでしょう。
「明烏」「蘭蝶」もずっと聞いていないので すっかり忘れてしまいました。
「縁でこそあれ 末かけて・・・」は
蘭蝶でしたかしら。
だめですね、こんなこと言っているようじゃ。


猫介さん 喜三二さまにそんな風に見送られて本望でしょうよ。
愛妻のお猫さまも愛息子の坊ちゃん猫も
みんな猫介さんのところに追いついたのでしょうか。
今頃 下界を見下ろして暢気に楽しく暮らしているのでしょうね。

moon3おあやのお内儀さま江

 いやァいゝもんですねェ、新内は。ッてどっかで聞いたよふな科白になっちまうが、ほんにしっくりとこっちの胸に落ちやすねェ。やっぱり江戸のご先祖さまたちが磨きあげた世界だけのことはある。いゝ二日でしたゼ。

 お江戸の、めえに住んでた辺(へん)にまい戻ったら、どうやら猫介の孫だかひ(曾)孫みてえな虎がおりやすんだが、半野良らしくてなじまねへ。チョイ\/と呼ぶと、尻尾で返事したりするから、あっちの血の中にァあっしをじい(祖父)さんだかひい祖父さんが世話になった人ッて思ひがぼんやりあるのかも知れねへ。
 猫介も餓鬼時ぶんに野良でネ。こゝンちで飼ってもらふンだと向ふで決めこんで来たよふな野郎だったからねェ。かしこかッたヨ。そいだけに若死にしたときァ不憫でなんなかったゼ。

 喜ンの字

猫と人にも相性ってモンがありまさあね。

あたしんとこにも、そりゃあ頭のいい、猫徳供えた雄がいましてね、子猫んときゃあとろけるように可愛いかったんでさ。長じてからもなまじな人間より分別があってね。

そいつをなんで嫌ったか、一緒に住んでるわけでもねえ叔母が、ある日婚約者だとか言うふれこみの獣医を連れて来てね、その猫が風邪引いてるみてえだから、入院させろってんですよ。

行きつけのとこに行くからいいってのを、無理矢理奪うようにして連れてって。

次の日、電話したらもう死んだってんで。今まで風邪なんぞひいたこともなきゃあ、ボス猫としてのけんか傷だって顔の前面にしかついてなかったのが、一晩でおっ死んで、それで連絡もしねえたあ、人面夜叉よ。

しかも体ももう無いってえんだ。家族と、その猫のファンの友達連中と泣き暮らしたぜ。

すまねえね、こんなとこにだらだらかき込んじまってさ。でも、師匠の猫さんもいいやつだったんでしょう、つい思い出しちまってね。

moon3ねこじゃねえやいのお玉姐さん江

そいつァとんでもねへ獣医だねェ。ゆるせねへ。そういう野郎にァ猫又に化けて祟ってもらいてえネ。
なんだか泣いても泣ききれねへよふな咄だねェ。獣医のくせに、動物を可愛がる心を持ってねえ罰あたりだゼ。
姐さん、よく供養してやっておくんなさいナ。浮かばれねへもんねえ。

喜ンの字

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