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2008年5月17日 (土)

帯賑隠居戯(おびのにぎわひいんきょのしゃれ)

 いまもあるのも知れねえが、乃木神社に露店の骨董市があって、根付ェ目ッけたのヨ。かれこれ二昔もめえ(前)のことだ。一つァ山賤(やまがつ[※1])、残るァ杖突き爺サ。どっちも象牙だゼ。山賤ン方は、手に鉈ァ持って束ねた榾木(ほだぎ[※2])ィめえにしてるから、いま山仕事ォ終えたとこッて風情ヨ。頭巾かぶり、山袴[※3]履いてゐる。上着の肩と袖口にァ当布してるッてえ細工の細かさサ。その上ヨウ、細ッけえのハ、上着はつる\/に磨き上げてあるが、山袴ァ梨子地仕上[※4]サ。手ェ抜かねえネ。仕事ァこうぢァなきャいけねえ。ひっくりけえすと底に光山ト銘が彫ってある。あっしァ根付のせけえ(世界)にァくれえ(暗い)から、この職人さんがどんだけのもんかは分からねへが、山賤とは言へ、顔の彫がいゝ。穏やかに微笑んでゐなさる。この福相は山賤どころか、お公家にしても可笑しくねヘゼ。
 爺ァ隠居だネ、きっと。右手にァ杖突いて、腰に廻した左手にァお数珠を下げておいでヨ。いまァ寺ァ参りのけえりッて心づもりなんだろうねェ。それにしてもこれェ造った根付師も工夫が細かいヨ。その数珠の輪ン中から穴ァ開けて、そこに組紐ォ通す仕掛けにしてあるのサ。洒落たことするぢァねえかい。天窓(あたま。頭)ハ月代剃ッたァ髷ヨ。羽織ァ山賤の仕上げトご同様。すべ\/に磨きあげ、長着ァ艶消し。羽織ァぞろりと絹物、長着ァ艶消しの仕上げ。絹は絹でも結城の紬ッて心ぢァねへかネ。ひっくりけえすと、銘は白之と読める。足にァちゃんと草履ィ履かし、藁の縒り目まで彫ってあるッてえ念の入れ様ヨ。こっちの顔だちも穏やか。目尻ィ下がって、にこ\/してござる。あっしもこの根付爺ィ見習って、いつも笑顔でゐねへといけねへやネ。
 そんでもって、この根付ェ活かして印傳で小箱を誂えやして、使っておりやしたんだが、愚息が所帯持ったときに、そンぢァおめえたちにやらあッて上げたのよ。気前がよくなッちまって、嫁にァ黒檀の根付。こいつァ赤子が盥で行水してるッて細工だ。跡(後)でこいつァまずいもん上げちまったかなッて悔やみやしたゼ。息子たちァ子どもはつくらねへッてのっけに挨拶がありやしたのにネ。こんなもんやるト早く孫ゥ産めッてェ厭味になっちまうかッてね。でもモウ上げちまったンだから、取り返しァつかねへヤ。ほかに結城の対の着物も上げるハ銀延べの烟管もッて持たせたら、傍にゐるのが「あんた死ぬンぢャないのかいッてネ。目が効くぜえ、家のハ。翌年(よくとし)だッたかにあっしァはらわた(腸)に穴ァ開いての七転八倒。図星の危篤ヨ。そんでも性懲りもなく娑婆に踏みとゞまって、かれこれ十年の余、いまだもってなんと息ィしてるッて渋太さサ。
 だもんで、親父ァ死なねへなッて見切りつけやがったか、一度はもらったがあの世へ行くまぢァ預けておくからッてんで、息子が戻してくれたンが、この印傳の小箱付の根付ッて次第ヨ。この箱にァいまァあっしも懐電話なんて洒落たもん持っておりやすんでね、そいつゥ忍ばせておりやすのサ。
 どっかでこの根付ェ帯に挟んでふらついてるぢゞい見かけたら、声かけてくんな。杖突いたほんもん(本物)のぢゞいが杖突き爺の根付ェ帯に挟んでるなんて洒落がきいておりやしょう。お茶ぐれへご馳(ち)になってもよござんすゼ。

附(つけた)り
[※1]山賤(やまがつ)。山中に住む樵や猟師のこと。
[※2]榾木(ほだぎ)。囲炉裏などで燃す細い枝や木など。
[※3]山袴。裾を絞った山や畑仕事用の袴。カルサン(軽衫)とも。カルサンの語源はポルトガル語の説がある。
[※4]梨子地仕上。梨の皮のようにざらざらした仕上げ。

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コメント

この前、写真を見せてとお願いしたこと覚えていてくださいましたか。
ありがとうございます。
それにしても、なんてまぁシャレた根付に携帯電話入れなんでしょう。
仰るように仕事が細かくて丁寧ですわね。
お見事です。
私もこういうものには疎いのですが、
素人の私が拝見しても良いものだというのがわかります。
表情がいいですものねぇ。
二つとも同じ乃木神社の骨董市で?
流石、お目が高いですわね。

それに山賤(やまがつ)・榾木(ほだぎ)
なんて久しぶりに目にした言葉です。
喜三二さまの日記を拝見して勉強させていただいております。

乃木神社の骨董市は最近行ってませんが、まだやってまっせ。あたしもここで普段使いの雑器を買ったことがございます。

ええ根付でございますなあ。これ目印に、今度はきょろきょろしてみますわ。今日も浅草三社祭で喜三二はん歩いてはるんちゃうかとおもてきょろきょろしてましてんけどなあ。

こないだ浅草で、印傳の鼻緒をみてまして、あんなんすげたらよろしいやろなあ、とうっとりしました。和物は奥が深くてなんでこんなに楽しいんやろかしらん。

moon3おあやのお内儀さま江

 ご覧なすってくだせえ。けっこうあっしにとっちァ自慢の根付ヨ。集める道楽ァありやせんが、たま\/この二体を一つの見世で商っておりやしてネ。どっちも気に入って、迷った揚げ句、有金下ろして買ッちまいやした。所詮、人生あすびだから、マいゝやト思ひ込むことにしておりやすのサ。

 喜ンの字

moon3Hiroko姐さん江

三社祭ですなァ。明日まで。見物に行かにァいけやせんなァ。観音さん大川から引き上げてくだすった恩人を祀った三柱の祭ですもんねェ。ふだん観音さんにおすがりしてる身としちァ、義理ィたちやせんので、明日ァちょッこと神輿ィ遠目でも拝んでこようかと思っておりやすのサ。

和のもんに惹かれるンは、そいつァやっぱり心の中から生み出されたもんだからでやしょうねェ。げえこく(外国)のもんにどんなに気ィ惹かれても所詮そりァよそっこのもん。年月過ぎりァやっぱり飽きやすナ。日本人はどこまでいっても日本人ヨ。
あっしァてめえが歳ィとってみて、よっく分かりやしたゼ。どんなにかぶれても目ェ青くなんねえ。

喜ンの字

いいお顔の根付けですね。そして印伝のお誂えも。写真を大きくして拝見しました。

誰もがもう、根付けの出番がないと思っていたら、携帯電話のストラップ! なんだか笑ってしまいます。そんなことは、お江戸の昔からしてますものねー。コレクションされるだけじゃなく日々使われて生きることに感嘆です。
そして、ご子息のお話いいですねー。まだまだこの根付けといい時間をお過ごしにならなくちゃ。

根付も印傳の小箱もとても素敵ですね。

根付の細工のこまかさ。
表情のよさ。

素人のわたしがみても、惹きつけられる魅力があります。

印傳の携帯電話箱も、しゃれていますね。

喜三二さんのお道具。またいろいろと拝見させてください。楽しみにしています。

moon3風知草姐さん江

 ありがたふおざりィやす。
 物ッてのは妙なもんで、物語がくッついてきて初めてほんもんになるッてえのか、大事にされるようになりやすネ。
 茶道具の箱書と似たようなもんかも知れやせん。この根付もいっぺん息子ンとこゥ行ってきたンで一層愛着が深まったように思ひやすヨ。

 喜ンの字

moon3ひよこ姐さん江

 ちか比(頃)腰に下げる烟管の多葉粉入に目ェいって、つゝしまなくちァいけねへト思っておりやすのヨ。そう\/先があるわけぢァなし、がらくたばっかし残しても、跡(後)のもんが迷惑しやす。
 あっしの悪い癖でね。すぐになんかに凝りやすし、凝ると抜け落ちやら洩れがねへように揃えなきァ我慢ができなくなっちまう。そんなあすび(遊び)ハもうとうに止めてなきャアなんねえンですがネ。

 喜ンの字

貴重な象牙の彫り物、骨董屋さんにはまだこんな逸品が埋もれているんですね。

乃木神社の骨董市、一度だけ出くわしたことがありました。

ふたりの根付けさんの表情、喜三二さんとの出会いをほんとに喜んでいらっしゃる様子ですね。
それにまあ、印伝のお箱の趣味のよさ、いいですねえ恐れ入りました。bell

moon3ミーシャ姐さん江

 ありがたふさん。
 これだから、骨董屋のめえ素通りできねえのヨ。つい覗いちァひょいと手ェ出しちまふ。
 でも、それがいゝ出会を生んだりしてねェ。
 この印傳の柄ァ、あっしも今までに見たことねえもんでして。職人さんが対になるようにいゝのン選んでおくんなすったとよろこんでおりやすのサ。

 喜ンの字

 見事な細工に惚れ惚れいたしやすよ。
 その笑顔の福々しいこと、福の神がおいでになるやうだねえ。
 ちょいと目ェ凝らして見遣ればそこかしこにお宝が・・・ふヽヽヽ
 楽しみが増えて嬉しいねえ。
 そンでてめえも目利きになれりゃいいンですがねッ。
 それにゃあ修行がたンねえか、精進・精進。

moon3仇吉姐さん江

 ナ顔がよござんしょう。彫手が賤しいと彫った顔まで賤しくなるそうでネ。作り手はそれぞれ別だが、ともに豊かな顔をしていなさる。
 それにあやかって、持ち手のあっしもいゝ顔してなきァいけねえネ。勉強になる根付だヨ。

 喜ンの字
 

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