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2008年5月25日 (日)

一寸間席廻正蔵(ちよんのまよせまわしのしやうぞう)

 お江戸へ舞い戻っての冬に、ばったり出会ったお店勤め[※1]ン比(頃)のお方と今度は示し合わせてお会いいたしやした。この方とハ妙に縁が深くって、八つのお山に行ってたときィたま\/お江戸に用があって上ッて来て山手線に乗ろうとしたら、駅の階段でばったりヨ。そんなこんながあるもんで、きのふちゃんと水茶屋でお会いしたッてわけサ。あちらさんハあっしより半周りがとこ年かさ。めえにァ癌で腎臓一ヶ取ったとは聞いておりしたが、前立腺も癌になってそいつも取ったぜト元気な笑顔。冬に出喰わしたときもけふも額にァびっしょりの汗。カロリー減らしにけふも練馬から水茶屋のぶくろ(池袋)まで歩いて来たンだト腰の万歩計。畏れ入谷だゼ。糖尿予備軍だけど、麦酒ァがば\/呑んでるッて大笑いして見せてくれやしたが、あぶねえ奥の細道へゝえっておいでヨ。半刻の余も四方山咄、さてお帰りも歩きですかいト訊きァイヤ電車サッてンで、そんぢァあっしァ鳥渡(ちょいと)西口へト右と左のお別れ[※2]し、ぶら\/行く先ァ演芸場[※3]。今の時刻の三時ッ比。もぎりの姐さんに半券渡したら、なんとかさんがお休みですッて言ったが、こちとらお生憎で聞こえねへ。ざまあみやがれ。あゝそうかいッて鷹揚に頷き、扉そっと開けてもぐり込みァ林家たけ平の真ッ最中。終わってひょいと気がつきァもぎりの姐さん番組刷った引札[※4]もお忘れヨ。もらってひッけえし、お次は柳家喜多八。いつもの伝でだるそうなやる気のなさが売りで始まって、咄ァ鰻の幇間サ。こいつァ志ん生で何べんとなく聞いたが、喜多八のは別の笑いを上手くつくりァがる。志ん生ンとはこゝが違うなッてちら\/天窓(あたま。頭)ァかすめるがそんなこたァお構いなしの可笑しさヨ。ちゃんとこの人ならぢァの咄になってゐるッて寸法サ。仲入りの跡(後)は禽太夫。この芸人さんも柳家サ。そン次が、正蔵ッて引札にァ書いてあるンだが、そいつが休みッてことだったのエ。やろう、廻しィ取りやがったナ。あっしァこのめえ(前)の鈴本で三遍目、馴染みなんだゼ。ちょいと顔出して「主さんちょいと待ってゝおくなまし、うるさいの片づけて来るからネ、寝ちァやだよッくれへ言って行きァいゝものを面のツの字も出さねへ。愛想がねへゼ。代わりのご機嫌取りの新造[※5]は振新ならぬ番新辺り、白酒ヨ。はくしゅッて呼んでくれト自分で名乗っておりやしたが、誰も拍手しやがらねへ。洒落が洒落にならなかったゼ。しろざけなら,あっしァいゝのォ知ってるヨ。博多の練酒[※6]。江戸の比の造り方でこせえた白酒ヨ。こいつァ絶品ですゼ。大きめの盃になみ\/注いでネ、ゆる\/と干す。呑みたくなっちまったぢァねへか、エヽどうしてくれる、白酒ッてネ。咄ァ短命ッてェ題かね、振るいつきたくなるふやな別嬪さんとこに聟が来ちァ次々に早死する咄サ。江戸語で、別嬪を命取りッて言ひやしたもんネ。面食いハ用心しなッて。お跡ァ太神楽はまだお若い柳貴家小雪姐さん。上手いもんだねェ。どんだけ修業すると毬も傘もあんな自由自在に操れるのかねェ。トリは柳家はん治の妾馬。相変わらずの八五郎の莫迦丸出しの咄だが、お鶴の方さまに出世した妹に語りかける辺りァちょいとしんみりさせやしたヨ。よござんしたゼ。
 一刻ほどの寄席の一寸間(ちょんのま)あすび(遊び)。へばりもん(者)のあっしにァこのくれへが丁度いゝとこさネ。撥ね出しの太鼓で外ィ出りァ雨ヨ。この席ィ来るとよく雨になりやがる。この寄席ァ雨席ぢァねへのかい。サテ晩飯はどこでト。雨ぢァ面倒なんで家の駅めえの建もんのくせに屋台を名乗る居酒屋でおでんでぺえいち(一杯)。いつもの伝でぬる燗一本ッて誂たら、ハイよッて出てきたのがなんとビードロ[※7]の筒茶碗[※8]ヨ。こんなもんで酒ェ呑めるなんて、江戸の十八大通[※9]だってなかったンぢァねへかい。罰ィ当りそふなありがた山ヨ。それにしてもあっしァ徳利に薄造りの盃でなめるやふにやりてえ口。ぐい呑みさえ遠慮してへとこなんだが、そいつとッ越していっぺんでビードロ酒になッちまった。コップで呑むなァ初めてサ。江戸の昔なら、一合枡の角から呑むッてやつだネ。よっぽとその方が風情がありやすネ。おでんはまァだったが、そいつがネ。マしゃあねへか。

【附(つけた)り】
[※1]お店勤め。おたなづとめ。会社員を洒落て言った。
[※2]右と左のお別れ。都々逸「可哀相だよズボンのおなら 右と左に鳴き別れ」
[※3]演芸場。池袋演芸場。http://www.ike-en.com
[※4]引札。現代のビラを江戸時代は引札と称した。寄席の番組表を引札と洒落た。
[※5]新造・振新・番新。花魁の付いて名代などを勤める。振袖新造の略。振新とも。年かさになると番頭新造になる。末は花魁。
[※6]練酒。練絹の滑らかさの白酒。http://www.ginza-mikawaya.jp/items/liquor/03.html
[※7]ビードロ。硝子、のこと。切子はギヤマン。
[※8]筒茶碗。真冬の茶席で用いる直径が狭く底が深い抹茶茶碗。ここではコップを洒落れた。
[※9]十八大通。安永・天明期の通人。自ら大通を任じ、銀烟管に黒小袖姿で吉原に遊んだ十八人。蔵前の札差大口屋暁雨・大口屋平兵衛・大口屋八兵衛(金翠)・大口屋平十郎(有遊)、材木屋大和屋太郎次(文魚)、干鰯屋村田屋帆船(春海)、吉原の楼主大黒屋秀民・扇屋墨河・大上総屋一麿、文士二代森羅亭万象・田螺金魚など。仏教の十八羅漢か水滸伝の武芸十八般に因んだものと言われる。

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コメント

喜多八はん、こないだ初めて見せてもらいましたけんど、ほんまにだるそうな雰囲気でおもしろい。引っ込むときも、足取りがねえ、人生やるのんもめんどくさいという風情。あのお方、若い頃からあんな芸風やったんかしらん?

私も喜多八さん 高座を拝見しましたわ。
どうでもいいや、という持ち味がひいきにはたまんないんでしょうね。

私、今特にひいきの噺家さんがいないので
どうも最近寄席には足が向きません。

太神楽 私好きです。
色ものも面白いですよね。
音曲の松乃家 扇鶴さん この人のやる気のない都々逸や小唄もなかなか面白かったんですよ。

moon3Hiroko姐さん江

あっしもついこないだからなんでねェ。わけえ比ァどうなんでやしょうねェ。きっともっと気力なかったンぢァねえでしょうかねェ。あの歳なら、ご立派な大師匠がみんなこの世にゐて、生に見て聞いておりやしょうからネ。こいつァかなわねへ、とんだ稼業についちまったなァってネ。
やる気満々ッてのハあっしァついていけねへ。やる気なんか見せねへで、ちょいとめえ通りがかったから、ちょこっと高座ァ上げさせてもらいやしたヨなんてのが、あっしァ好きだねェ。

根性なしの 喜ンの字

moon3おあやのお内儀さま江

 足が向かねへなんておっしゃりながら、喜多八ちゃんと見ておいでだねェ。隅ィ置けねへヨ。
 松乃家扇鶴さんですかい。その芸人さんの都々逸や小唄も聞いてみてえねェ。やる気のないとこッてのがいゝぢァござんせいかい。力ァほどよく抜いてネ。芸がねへとできねへ芸当でやすもんネ。
 都々逸や小唄なんてえもんは、元々そういうもんぢァねへですかい。力ァへえって見えちァ鬱陶しいもんネ。

 日向子師匠ぢァねへけれど、若隠居で力入れずに生きてきたかった 喜ンの字

寝ちゃァやだよって  あはっ
  あんまり面白くないのが出てくると 
 ついあくびが出ますけど、
 正蔵さんのは寝てる人なんざいないんでしょね。。

おしまいまで読んでたら、木の香りのする
 枡酒いただきたくなって参りましたー

それにしても いつも江戸語に洒落てらっしゃるこの文章
 面白い上に附りまであって 勉強になります  感謝感謝

moon3ひとみうぢの姐さん江

 ヤアありがてえネ。書き込みしてくださるッてえと、張り合いがありやすゼ。
 正蔵とあっしァなんか深い縁があるのかねェ。こないだの席は誰が出るかも確かめねえで、ふらッとへえったら正蔵が高座に上がることになってたのヨ。ところがやろう、すっぽかしやがった。まるで花魁ヨ。見事に振りやがったゼ。
 散茶でゐてくれりァ振りッこなしなのにナ。

 喜ンの字

 やる気なさそな、さりとてしっかり笑わせる
気負わないからこちらも構えず
すうっト聴き入ることが出来るンでござんしょうか。
 客もこン時ばかりゃあ腹ア抱えて泣き笑い
浮世のかそけき憂さ晴らし。
 
 旦那ハ宵越しのぜにゃア持たないくちかねえ。
 あたしハ縁が無い方でね、あはゝゝ

moon3仇吉姐さん江

 宵越しの銭どころかヨ、晦日越しの金せへ持てぬ素寒貧サ。
 そのうちなんとかなるだろうッてネ。その内その内で、あの世へおさらば。こいつばかしァ早いもん勝ちだねェ。

 韋駄天 喜ンの字

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