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2008年4月 9日 (水)

正蔵贔屓噺(しゃうぞうぞっこんばなし)

 春の嵐と言やァ花の色や萌葱の新芽ェ思い浮かべやすが、こないだ弥生(三月)三日(陽暦4月8日)のァ猛り狂ったようでやしたねェ。桃の節句だから、女の日。確かに女ァ怒らすと恐えへからネ。マ初ッぱなで咄ィ横丁ばいりしちァいけねへが、その吹きッぷりの最中(さなか)に、ぶくろ[※]の寄席ェ鳥渡(ちょいと)覗きやしたのサ。
 そしたら、なんと昼の部の番組の真ン中へんで、正蔵が出てきやしてネ。そう、あの林家ですワ。トリは柳亭市馬だヨ。仲入りのめえでも跡(後)でもねへ。なんとなく真ン中くれへンとこサ。あのいつものへらへらッて自信なさだか照れ笑いだかァ浮かべて出てきやしてね。いゝ着物着てゐたねェ。噺家さん見ると、いつも思ふのヨ、あっしァ。着物がてえへんだろうなッてネ。一張羅の着たきり雀ッてェわけにもいくめえ。客商売だもんネ。正蔵が貧乏だって言ってンぢァねへゼ。二ツ目だとか前座だとかの咄ヨ。
 そんでもって、枕があって、すいッと本題にへえったンだが、あっしァじつ言やァ小馬廉(こばか)にしてたのヨ。正蔵の名跡継げるのかねえッてネ。歌舞伎の千両役者の向ふ張ってお練りしたのも気に喰わねへ。大名人ッて言われたあの志ん生だって、噺の中とは言え、噺家なんか歩くとこなくッてどぶン中這ってあるッてたなんて言ってやすもんネ。一歩も二歩も引いてンのヨ。芸人なんだからッて承知なすってゐるわけヨ。それがお練りする。罰ィ当たるぜトあっしァ思ったネ。空恐ろしいッてことヨ。
 高座に上がってテレビの楽屋裏のことなんか咄てたそうだってネ。そしたら席亭さんに、古典やんなせえッて言われたッてんだ。茶ァ濁してちァいけねへッてわけだ。
 そんな咄、洩れ聞きやすとね、なんかこの野郎ッて気になるッてわけヨ。その正蔵の噺ィ聴いてゝ、はッと気づいたンだ。高座の正蔵のその目に吸い込まれてンのよ、あっしァ。正蔵しか見えねへ。高座の両脇に格子がありやしょう。それも消えちまってンだ。高座の床もなくなってる。あっしから正蔵まで、何列もお客の天窓(あたま。頭)ァ並んでゐるはずなんだが、それも消えちまってる。正蔵とあっしゝかゐねえッて寸法だ。恐ろしいもの見たよふな気ィしたゼ。ありァ天性のもんだ。芸いくら磨いてもそこにァいけねへ。生れついてもってるもんだ。それが古典やることで内から出てきたんだ。あっしァいっぺんでころッと参ったゼ。もいっぺん、この噺家の噺ィ聴きてえッ思ったンは、初めてヨ。あっしァ凄いもんに出会ったンぢァねへかねェ。
 そいで思ふのヨ。古典やれッて言った席亭さんハ伊達のお人ぢァねへネ。見抜いていたンだねェ。あっしァいゝじでえにまた出会えたのかもしれねへ。うれしいねェ。餓鬼ン比(頃)に志ん生圓生聴いてゝそれを当りめえに思ってたが、逝っちまってからあゝいゝ時代だったンだと気づいたッて始末ヨ。いまゝたそいつゥ迎えようとしてンのかも知れねえ。

附(つけた)り
[※]ぶくろ。池袋のこと。

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コメント

へえぇ。
あたしも正蔵さん、小馬鹿にしてたとこあったんですが、そんな日記を読んだらちゃんと噺をきかないといけませんね。それもやっぱし、喜三二さんのように寄席でききたいもんですね。

moon3Hiroko姐さん江

 聞くと見るとは大違いッてこのことだねェ。
 あっしァ恐ろしい思いゝたしやしたヨ。こんなこたァ初めてだ。

 寄席はやっぱりこじんまりしてるとこがよござんすねェ。マイク使わねへもんネ。

 喜の字

わたしも正蔵さんのイメージは、軽くてタレントっぽい感じで・・・・というものでしたが・・・・・。
喜三二さんのブログを読んで、そんな素晴らしい芸をもってある方だと知って意外でした。
やはり芸人さんにはTVで内輪受けの内容を喋り散らすのではなく、芸を見せてほしいと思っています。
正蔵さんの落語、聞いてみたくなりました。

moon3ひよこ姐さん江

 聴いてるこっちィこれでもかッて押して来る噺家ァ大勢いるが、引いて引きずり込むやつァそうゐねへ。
 あっしァ、語ってる正蔵の目ン中に吸い込まれておりやしたヨ。あいつァ魔物だゼ。てっぺんまで行くかもしれねへ。

 喜の字 

tubetaiameni sakurahanabiramo utifurueteozyariyasu
DANNA iihanasikikaseteitadaki arigatogozaimasu
yatunonakamamo gannkubisoroeruteiukotomonaku
asakusamoudeno danngoumomamanaranai
guainowarusa mousiwakearimasenu
sibasiomatiare takanoji

喜三二さんの「江戸っ子修行手控え帖」のリズミカルな文章もまさに名人芸だと思っています。
いつか「本」で読みたいものです。

追伸:文章に「名人芸」っていう表現はおかしかったでしょうか?
でも、大好きなんですよ、喜三二さんの文章。

あたしもやっぱり古典がすきですねぇ。
 江戸の町に溶けていけるようで・・・

でも 正蔵の名を継いだということは
 やはりなにかをもっているのでしょかね?
 声が好みでないので あまし聞いた事御座いませんが。

moon3たかの兄さん江

 都合がつかねへことァ誰でもあることでやすから、あんまり重く考えねへでおくんなさいナ。皆さんのご都合がよくなりァ気軽にのしておくなんさいヨ。花は散っても、お江戸にァ一年中華がありやすから、いつでも楽しめやすゼ。

 喜の字

moon3ひよこ姐さん江

 本にしてやらふなんて奇特な蔦重[※]が現れたら、洒落が利いてゝいゝねえ。
名人芸だなんて、うれしいこと言っておくれだねェ。あっしァ馬廉だから、筆が走りだしちまいやすゼ。

謹んで御礼 喜の字

附(つけた)り
[※]蔦屋重三郎。出版社を江戸で名高い版元の名で洒落た。

moon3マリアの介姐さん江

あっしもネ、あの鳥渡(ちょいと)甘えたやふなあの声ァ耳に触りやすンすが、噺にへえるとそんなこと、まったく忘れさせちまいやしたゼ。じつァきのふも聴きに席ィ寄ったのヨ。
姐さんもどっかでとッつかめえて、聴いてやっておくんな。

喜の字

さすがハ華のお江戸、伊達に人がひしめき合っている訳じゃありやせン、本物になる為に鎬イ削ってンだねえ。
日々に追われたアタシらの心つかむンハ容易じゃござんせん。
増してや古典落語ハひよこじゃいけやせんし年嵩な旦那衆ハ先人を知ってらしゃる、世襲だけじゃあ通用しヤせんからね、芸の道ハ。

moon3仇吉姐さん江

 イョッ姐さん、鋭いネ。「日々に追われたアタシらの心つかむンハ容易じゃござんせん。ほんにそうヨ。苦労の海ィ泳いでるしと(人)を屈託なく楽しませるッてのハ並の芸ぢァできねへ相談。そいつヲやらふッてンだから、芸人は苦の底の道ヨ。てめえにどんな苦労があっても、そんなことおくびにも見せずに、へい、お退屈さまッてやらなきャなんねへ。

 喜の字

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