無料ブログはココログ

« 謎出会縁參人目(なぞのであひえにしのさんにんめ) | トップページ | 根岸午羽二重肌(わびずまひゝるのはぶたへはだ)[※1][江戸仮名混じり書き] »

2008年3月16日 (日)

仰天出会縁御与(びっくりであいえにしのよったりめ)[江戸仮名文字混じり]

 足に馴染んで久しい雪駄も寄る年波にやつれ果て、印傳(いんでん[※1])の鼻緒(はなを)の色が白足袋尓(に)にじむ侘しさ。江戸詣の棒組[※2]ト思やァ、うっちゃる[※3]邪険もできねへ可゛(が)道理。鼻緒の取ッ替ゑ頼ミ尓(に)、繰り出した先者(は)絶世の別嬪お二方[※4]お揃いの、ご存じ浅草。雷門の廣小路渡って茶屋町[※5]、折れて材木町。履物問屋の長谷川で燻(いぶし)印傳[※6]焦げ茶の鼻緒、選んですげ[※7]と底皮の、直し頼んできびす遠(を)返し、観音さま尓(に)弁天さん。お参り後生を託し、跡(後)ハお定まり並木丁[※8]の藪[※9]。暖簾(のうれん[※10])撥ね除け、ごめんなすッてト追い込ミ[※11]能(の)相席。いつもの寄り道昼下がり奈(な)ら、まずぬる燗で一本といく可゛(が)定石なれど、けふ者(は)ざるゥ壱めえト誂えて、組ンだあぐら尓(に)懐の、手拭ひろげほッと一息。ト、隣の先客からひと声かゝり、「その手拭の柄ァなんて言ふンですかい能(の)お尋ねヨ。
  問はれて語る无(も)おこがましい可゛(が)、こいつァこのめえ藤や[※12]でひょいと目尓(に)して紙入[※13]の、なけなし残り銭はたいたばかりの新調もの。下ろしたて能(の)湯気が出そうッて代(しろ)もンヨ。そんとき見世番の姐さん尓(に)、なんてえ柄だいト訊いたばかしの受け売りで「へい、玉つなぎでしてト答える間のよさ。こいつァでかした誉れの出来事。
 ざるゥズヾッと手繰ッて、「はい、ごッそさんト贋銀大小穴開き取り混ぜて[※14]ジャラリと払って格子戸後手(うしろで)尓(に)出りァ、早(はや)春能(の)霞か浅葱の空。午(むま[※15])の刻を鳥渡(ちょいと)廻った陽(ひ)ィ真ッちょうめん(正面)。天尓(に)輝く雷門の大瓦屋根。お参り欠かしちァ義理が廃(すた)るッてもの。人波掻き分け仲見世抜けて、けふも久しい贋銀いちめえ。ぽぉンと放ッて手ェ合わせ、お燈明も大奮発。こいつァご利益ごっそり来やしょう。なんてッ多(た)ッてお燈明、上げていたゞく佛の智恵。あっしの盆暗天窓(あたま)尓(に)も、ぽッと智恵の灯がともるッて寸法サ。
  戻ッて材木町の長谷川で、直し終わった雪駄尓(に)白足袋、鼻緒の〆遠(を)加減して、もらって職人さん尓(に)送られて、土竜(もぐら)電車能(の)穴蔵江(ゑ)もぐる地表の入口で、電話遠(を)一ツ。かけて終わってひょいと横、見りャ見多(た)お顔知った顔。互い尓(に)見合わせ「おやト声合わせ、こいつァ奇縁ごぶさ多(た)ぶり。このめえの船遊山の連(れん)でご一緒したての字の旦那ぢァござんせんかい東(と)ご挨拶。ことしァ思ひもかけねへ出会能(の)おどろき、縁が縁を呼んで能(の)出会の数々。旦那でこれで与(よ[※16])ッ多(た)り目。ことしァどんな運が転がり込む可(か)。こいつァ春から縁起 可゛(が)いゝわいなァ。

附(つけた)り
[※1]印傳(いんでん)。鹿革に模様を切り抜いた型紙を当て、漆で柄を染めたもの。いんど伝来と言われこの名がある。武将の甲冑の胴などに多く使われた。甲州産が多い。
[※2]棒組(ぼうぐみ)。駕篭舁(か)きの相棒のこと。そこからただの相棒の意にも転化された。
[※3]うっちゃる。投げ捨てる、の意。
[※4]絶世の別嬪お二方。浅草寺の観音さまと境内辰巳角の弁天山に奉られた弁天さまの意。
[※5]茶屋町。雷門の前の通りに左右に広がる町並みは江戸の時代、参詣客を目当てにした茶屋が並び、茶屋町と呼ばれた。なお、本稿の地名はすべて江戸幕末の町名。
[※6]燻(いぶし)印傳。本来の印傳は、なめした鹿革を大きな樽に巻き付け、その上に糸を巻いたり柄を置いて下から煙でいぶして色づけをした。
[※7]すげ。鼻緒をすげる、の意。
[※8]並木丁。並木町、の意。雷門の正面へ向かう道筋の左右の町名。かつて松並木があり、そこに新吉原通いの客を乗せるために馬子が馬をつないで客待ちしていた。江戸時代、町人地には町名があるが、絵図(地図)では町を丁と表記する例が多い。同音のためなのか、一丁の距離を一単位として区割りをし町にしたからか。
[※9]並木丁の藪。並木藪蕎麦の略。
[※10]暖簾(のうれん)。江戸時代(後期)この発音が記録されている。守貞満稿参照。
[※11]追込。追込座敷の略。人数に関係なく客を入れる座敷。但し、並木藪蕎麦は座卓で人数を制限しているので、正しくは追込座敷ではない。座卓は現代のもので、江戸の頃は蕎麦屋に限らず水茶屋など、どこでも卓は用いられていなかった。
[※12]藤や。藤屋のこと。手拭専門店。弁天山近くにある。江戸の書籍を見ると、現在なら○○屋と書くところを○○や、と屋の字を仮名表記していることが多い。
[※13]紙入。鼻紙入れ。これに小粒(一分金)や銭などの小さな銭金を併せて入れ、財布代りとしていた。
[※14]贋銀大小穴開き取り混ぜて。現代の銀色をした効果はすべて銀貨紛いである。大は五百円硬貨、小は百円硬貨、穴開きは五十円硬貨の洒落。
[※15]午(むま)。午の刻。正午、の意。むまは旧仮名遣いの表記。
[※16]与(よ)。四の意。四はしとも読み、しは死に通じるため、悦ばしい字である与に換えることが多かった。重箱の四段目を与の重と呼ぶのもそれである。

« 謎出会縁參人目(なぞのであひえにしのさんにんめ) | トップページ | 根岸午羽二重肌(わびずまひゝるのはぶたへはだ)[※1][江戸仮名混じり書き] »

コメント

まぁ、驚き、続けざまにばったりというのがこんなにもねぇ。
ての字さん、あのお近くにいらっしゃるとは伺ってはおりましたが、
私は何度観音さまにお参りしてもお目にかかることはございませんでした。
信心の度合が違うのでございましょうかしらね。

moon3おあやのお内儀さま江

 書き込み、ありがたふごぜえやす。みくしぃからの一番乗りでござんすヨ。お内儀さまァかわぎりに、そっちのお仲間がこちらァあすび(あそび)来てくださるトこの根岸の里の侘住まいもにぎやかになるンでやすがネ。

 ての字の旦那とのひょッこり出会ハ観音さまのご利益か、はたまた弁天さまのお力か、それともお二方合力の霊験か、続けざまの出会にァ、ほんに驚き桃の木桜の木、ことしァいろんな花が咲きそうな、滅法界の極楽年になりやしょうかねェ。あんまり運がいゝトこわァござんす。
 次はどんな思ひがけねへお人に出会うやら。間抜けな面しちァ歩けやせんゼ。

 根岸の里の隠れ住み 喜の字

 印伝の鼻緒とハお洒落でやすね。
 白足袋にこげ茶の印伝模様、落ち着いた色合いでしっくり馴染んでいなさるんでしょうよ。
 完璧の一歩手前がいっちむつかしいンでさア、野暮になっちまうからねえ。

moon3仇吉姐さん江

 おほめくだすって、ありがてえ。
 確かにサ。決まり過ぎると厭味だもんねェ。だからッてわざと抜くと、これも気障。
 男前あげるのも容易ぢァねへヤ。

 喜の字

 

eye むふふ、燻し印伝...。
小判型の草履の鼻緒、がま口に筆入れ、むかしむかし、小遣いが飛び出したじいちゃんの財布、となじみの印伝、その、燻しってのはお江戸のものなんですか?

いやあほんにこちらは寺小屋だ。
知らないことがまだまだ多いです~。book

なんで、ひょいっと東大路の街角で喜三二はんと巡りあわせへんのやろ。こらお地蔵さんの信心が足りひんのやろかしらん?

今度は浅草あたりで、「あれ、鼻緒の紐が〜」とゆうて立ち往生のふりしてるんがアタシかもしれませんでぇ。そこで「あっしがすげかえやしょう」と騙された喜三二はんが声をかけたが運の尽き。にんまり笑って蕎麦屋に連れ込み御酌させまくるって寸法でござんす。首を洗って、まっとぉいっとぉくれやっしゃ〜♪ ウヒヒ。

moon3ミーシャ姐さん江
 返しが遅くなってすまねえ。にふてぃのドジが修理に手間ァかけておりやして、この二日ッくれへ書き込みができやせんで。ほんに勘弁してくんな。
 江戸の火消しの頭衆ハみんな燻の皮羽織着ておりやしたもんでやして。まだそれが古物で出ることがありやすネ。それを小さく切って多葉粉入れなんぞ造るとけっこう粋なものになりやすヨ。

 喜の字

moon3Hiroko姐さん江
こいつァあぶねえヤ。そしたら「姐さん、あっしの肩に掴まンなせえ。すげてあげやしょう、なんて騙して岡場所へ売り飛ばしてト思ったが、そいつァいかにも阿漕だから、出会ったそんときァ観念して、姐さんの心いくまでお酌させてもらいやしょう。
だけどなんだゼ。あっしのようなぢゞいの酌でいゝンですかい。酒の味がおちても知らないヨ。

喜の字

ウチの近所で藤やさんの型を作ってる方が
いるんですが、ご病気で仕事を辞めてしまうとか。うちの亭主が作品!を戴いてきたのですが、ほんと惚れ惚れするような物ばかり。

もったいなくて使えないって。

こちらには初書き込みです。ひよこです。

素敵な偶然の出会いが続けさまに四回も!

ほんとうに縁って不思議なものですね。

それにしても、喜三二さんの日記の名調子が引き続き拝見できて嬉しいかぎりです。

moon3しみちゃん姐さん江

 うわわわわッて叫びてえくれえうらやましい。ほんにもったいなくて使えねへ気持分かりやすゼ。しかし惜しいねェ。跡(後)継げる人おいでなんかねえ。これでまた江戸の灯がひとつ消えていくのかと思ふトあっしァ切ねえヨ。
 その作品、でえじにしてやっておくんなさいナ。

 ふじ屋贔屓 喜の字

moon3ひよこ姐さん江

 書き込みしてくだすッて、ありがたふさんですゼ。こうして書いてくださるッてへトあっしとしてもやっぱり張り合いがありやすヨ。
 ちびた電子筆の穂先なめなめ下手な文でもまた綴ろふかトね。

 下手の横好き 喜の字

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/127972/11402235

この記事へのトラックバック一覧です: 仰天出会縁御与(びっくりであいえにしのよったりめ)[江戸仮名文字混じり]:

« 謎出会縁參人目(なぞのであひえにしのさんにんめ) | トップページ | 根岸午羽二重肌(わびずまひゝるのはぶたへはだ)[※1][江戸仮名混じり書き] »

最近のトラックバック

2017年1月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31