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2008年1月31日 (木)

尾張霰雨交(をはりあられのあめまじり[※1])

 味を占めたら通う千里もひとッ跳び、ついこのめえの、舌の根乾かぬ霰蕎麦、時期のものト思へばいつまであるぢャなし。人の命ァ限りもの、喰える出会いに舌ァ肥やしておかねえと、次に会えるは冥土か三途の川ッぱら(原)。此岸の胃の腑に収め、いつ旅立っても悔いのねへ、そんな思ひの浅草寺詣。雷門めえの広小路、空ッ風に背なァ押されて東へ半丁、白地に墨痕、尾張屋の招牌(しょうへい。看板)。暖簾(のうれん)くゞッて格子を明けりャ比(ころ。頃)は時分どき(※2)、隅の一席借り受けて、「姐さん、あられト声かけりャ、「アラお客さん、二三ンちめえに大星(※3)の品切れと同時に終わってしまッてねェ。蕎麦ァ台(※4)に、そん上に、色紙に切った(※5)浅草海苔(※6)いちめえ敷いて、小柱ン中でも大星ばっか選りすぐっての天の盛り(※7)、そいつを種(※8)に喰わせる江戸名物霰蕎麦。それが喰えねへトあっちァつれねえ咄。「また今年の師走の中比(なかごろ)まで待っておくんなさいな、の女将の慰め。ものは考えようと言ひやしょう。こいで今年の暮れまで生きてく目当てができたッてもんヨ。梅が見たきァ春までお待ち、桜愛(め)でたきャ散り初(ぞ)め待ちな、ほととぎす聴きたきャ啼くまでお待ち、大星尽くしの霰蕎麦、手繰って舌鼓打ちたきャ師走の半ば、そこまで生きて出会える仕合せ。こゝで川柳一句。

  長生きや生きてるかい(※9)の霰蕎麦

  さて、お目当てに素ッぽかされたらなんにしよう。種もんの洒落ハおかめ(※10)ト出やしょう。干し湯葉、蒲鉾、竹の子、麸に玉子焼き、そいつら配しておかめの顔を丼の中に仕立てた茶目っ気。具を載せたゞけぢァ曲(きょく[※11])がねへ。ひと工夫がお江戸の洒落と言ふもんサ。
  出てきた丼がまたいゝねェ。片手で持って蕎麦ァ手繰れる小振さが、うれしいぢァござんせんかい。置いたまゝ喰うのは犬食いの恥ッさらし。ときたま面(つら)ァ洗えッてェ魂胆かとうたぐりたくなるでっけえ丼だす箆棒(べらぼう[※12])な見世もありやすが、こゝンちァそんな頓間(とんま[※13])ぢャござんせんダ。
  温(ぬく)めた熱々丼持ち上げて、熱々蕎麦ァ手繰るがその熱いこと。ふう\/吹いて一箸手繰り、この熱さもご馳走ト下手な横好き、また一句。

  熱い種ひょっとこ顔でおかめ喰い

 ズズッと啜って、汁一口。出汁の利いた深みに甘味と辛味、こいつが江戸の蕎麦ヨ。そのうめえ汁をどっぷり吸った麸を口へ。歯を当てりァ中からしみ出す熱い汁。こいつァうめえのなんの熱いのなんの、たまらねへ。蕎麦ァ手繰ッちァ具を一口。このやったりとったりが種もんの楽しさ。もりとハ違う味わいたっぷり楽しみ、銭ィ払い、ごッそさん(※14)ト外へでりァ、いつの間にやら小糠(こぬか)雨。霰に振られて雨に会う。こいつも洒落と受け流し、一歩踏み出す広小路。春(※15)はそこまで来ていらァ。

附(つけた)り
(※1)尾張霰雨交(をはりあられのあめまじり)。尾張は尾張屋の意。尾張と終を掛け、霰と雨は縁語。
(※2)時分どき。食事どの、の意。ここでは昼食どきを表す。
(※3)大星。小柱の元である馬鹿貝には、一つの貝に大小二つの柱があり、大を大星、小を小星と区別し、大星を上とする。
(※4)台。種もの(※8参照)の蕎麦では、蕎麦を台と呼ぶ。蕎麦屋詞。天ソの台抜きのと言えば、汁を張った丼に天麩羅を浮かしたもの。天ソ=種物の天麩羅蕎麦の略。これも蕎麦屋詞。
(※5)色紙に切った。色紙形に真四角に切ることを言う。
(※6)浅草海苔。現在の紙状の海苔は、浅草が発祥との説がある。江戸時代、浅草には古紙を漉き直す紙漉き職人が多くおり、その技術を元に海苔を漉き、そこから浅草海苔の呼び名が生まれたと伝えられている。
(※7)天の盛り。日本料理の盛りつけの基本。高く盛ることで料理に精気が生まれる。
(※8)種。種物の略。いわゆる汁物の熱い蕎麦。かけ蕎麦の上にさまざまな具を載せ丼で供する蕎麦の総称。
(※9)生きてるかい。かい=霰蕎麦の具である小柱の馬鹿貝の貝と、甲斐があるの甲斐を掛けた。
(※10)おかめ。おかめ蕎麦の略。
(※11)曲(きょく)。真っ直ぐはつまらず、ひねりがないと面白みがないとする江戸人の考え方。
(※12)箆棒(べらぼう)。馬鹿、の意。
(※13)頓間(とんま)。間抜け、の意。
(※14)ごッそさん。ご馳走さまがご馳走さんと軽くなり、さらに江戸弁で訛り簡略化された語。
(※15)春。旧暦(太陰太陽暦)一月一日より三月末日までが春。新暦では2月7日より5月4日がそれに当たる。

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コメント

無いとなると余計に欲しくなるのが人情。
さても、旨いもンを旬の時分だけとこだわりの有る見世がお在りとは、お江戸の意気地、健在で嬉しいねえッ。                こんな見世を贔屓にしなくちゃお江戸の意気がすたれちまうじゃないかい。                                     どっかの見世に爪のあかァ煎じて飲ませてやりたよッ。           

 句の返し
 おかめ食いほころぶ顔に福は内

▼仇吉姐さん江
 姐さんいゝとこ突くゼ。
〉こんな見世を贔屓にしなくちゃお江戸の意気がすたれちまうじゃないかい。
 ほんにその通りヨ。気っ風に惚れてッてのが江戸ッ子ヨ。

 あっしァめえに鳥渡(ちょいと)縁があってゐ中に住んだことがありやしたが、そこで昔ながらに蕎麦からラーメン、カレー、豚カツ、うなぎトなんでもござれの食堂がありやしてネ。そいつを土地のおばちゃんが、「あそこンちはいゝよ、なんでも好きなもん食べれッから、ト言ったにァがっかりしたゼ。
 こんな見世に限って一つとしてろくなもんありァしねへ。
 見世は客が育てるッてが、ほんにそうヨ。見世ェ甘やかすンは、天に唾するに似てらァ。

  喜の字

▼仇吉姐さん江
句のお返しのお返し

  歳の数 炒り豆喰って 鬼の腹

  気散亭喜三二 

まっちろな山里になっちまって、ひがな炬燵とにらめっこ。
ごろごろ横になって鬼の心境でやんす。
ご報告、師匠に1毛ばっかり近づきやしたょ。
麻褌を初着用。大和男の子の伝統に、ふぐりもゆらりゆらゆら、喜んでおります。
しかも我が手つくりとなりゃ、この世にたった一つの貴褌でもあります。mixiで『あさ(麻)ふんどし(褌)がっかい八ヶ岳』のコミュを立ち上げやしたので、覗いてみてやってくだせい。 
雪道は艶の溢れる若後家と同じでやんす。下駄の歯とられませぬよう、お気をつけて戴きますように
                  ぶらり高の字 拝

▼ぶらり高の字の仙人さん江
 ふんどしに開眼、おめッとうさんでやす。それも一挙に麻でお仕立てたァ感服いたしやした。
 あっしァまだそれほどの根性がねえんで、綿の軟弱褌。麻ァよほどのふぐりでなきァ、負けちまいやしょう。おみそれいたしやした。
 さっそく連(こみゅにてぃ)拝見させてもらいやしょう。

  綿の 喜の字 

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