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2007年12月 5日 (水)

昔馴染銀座髪結(むかしなじみなつかしのかみいどこ)

 お江戸に舞い戻って一(ひと)段落してみりァ、鬢(びん)のほつれが気になって、さて近場に腕ェ知った床とてあるぢャなしヨ。この地にァかつて何十年もゐたと言へ、その比(頃)ハいくら真似事ト言ってもしがねェ宮仕へのお店(たな)もん。朝、鴉カァで飛びだしァ夜星(よぼし)拝んでけえって来る身、住処と言ふは世を忍ぶねぐらに過ぎず、周りに床屋の一軒も知ッちァいねへ。月に一度ッツ足ィ運んで馴染み重ねたハお店近くの髪結床たゞ一軒。思い立ったが吉日ト土竜(もぐら)電車に飛び乗って、ひょっこり出たハ銀座の一丁目。名人達人神さまと崇め奉る山東京傳御大が紙多葉粉入の流行品(ベストセラー)でその名を高めた見世を江戸幕末に敷いた京橋の隣丁(ちょう。町)。
  赤白青の捩じりン棒くる\/廻る髪結床の目印探しァ、アレうれしや同じ場所。きざはし(階段)降りて、面ァ突き出しァなんと見覚へし職人の顔。「分かるかいト己が面ァ指させバ「オヤ見た顔のお客さんト思ひ出したとこト笑みこぼす。指折りかずえりャ十(とう)と四年。数ゐた職人の中から一等抜きんでてた腕の立つ奴ト見込んでいた男がいまぢャ床を預かる大将格。あの比に久しくあっしの天窓(あたま。頭)当たってくれてゐたそいつが残ってゐてくれて、その上こっちの面ァ覚えてゐてくれたなんぞハ客冥利に尽きやふと言ふものヨ。
  さっそく椅子に上がりァ、もふなにも言はなくても櫛鋏が動きだし、望んだとほりの整え方。天窓ァ揉みほぐす指の力加減の確かさに、天窓の疲れ目の疲れ、とろ\/蕩けだし、夢心地。あっしァ床屋ハ髪整え髭当たるだけぢァ満足できねェよ。それぢァどんなに上手くっても技に過ぎねェ。床屋の芸とハこふして癒してくれることヨ。やっぱり天下の銀座で看板張りつゞけ、荒波越えて残ってきただけの職人さんヨ。あっちがあっしよりわけえのがもっけの幸ひ。死にまであっしァこの見世に通へるッてもんヨ。ざまァみやがれ。あっしァ運の強い男だゼ。

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コメント

 もしやに開いた電子硯箱、やっぱりござんしたか。
男前を上げて吉原辺りで明け烏と洒落込む寸法ですかい?     隅には置けないねェ。

▼仇吉姐さん江

 勘がいゝねェ。図星ヨ。柳ばしから猪牙ィくりだし、堀ィ上がって日本堤を鼻唄まじりッてネ。そふ洒落るにァちと寒すぎるか。
 お江戸のあすび連中は根(こん)がいゝネ。寒風吹きすさぶ冬だって吉原通いはやったンだろうねェ。畏れ入谷ヨ。

 喜の字

お元気、桃の木、山椒の木。
師匠おつむに気を遣う何座ァ、好調な証拠。高の字もひと安心。
昔吸った江戸の空気も早や忘れ、田舎の臭いを当たり前だの○○の高でありんすが、四方の山々も痘痕だらけの白化粧、都会(コンクリート建築物集落)の風は諸々悪の種を孕んでおります。御身お大事に、江戸を闊歩なさいますよう。努々、超男子(ウルトラマン)と思い間違いなさいますな。第一便にて候。 喜三二大人脇侍たらんと汗すTAKAりん記

▼高ちゃん賛江

 無事に着きやしたヨの便りの一本も書かず、不義理な野郎とさぞかしお思ひでやしょうが、まだ引越しの後始末の片ァつかねへどたのばた、役所だの荷ほどきだの、その上いちンちおきの透析ハ久しい定め。追いかけられッぱなしの毎日で、重ね重ねた不義理の日々、世話を受けた恩ハ忘れもしねへ。三歩も四歩も下がってのド天窓(あたま。頭)下げ。暫く勘弁してくんねェ。
元気かいッて、気遣っておくんなすってありがたふおざりィやす。
 ぢゞいのこの歳になって初めてふるさとの佳さァしりやしたゼ。すれ違う赤の他人さまやふとへえった見世の女将やお店(たな)もんのちょいとした詞つきや身のこなし、それが江戸の水道の水で産湯をつかったあっしにァ百年も馴染んだふやに自然でやしてネ。気が休まるッてもんヨ。手垢のついた詞だが、ふるさとハ遠くにありて思ふものッてのが、八つのお山で暮らさせてもらったお蔭で身に沁みしやした。いまァそのふるさとの掛け替えのなさをしみじみ味わっておりやすわけでやして。
先だってめえの月の晦日があっしの茅屋、樗櫪亭の引渡だッたんで長坂へ行き、万事無事に終えた安堵から、青麗茶屋へ面ァださせてもらって、初めて麦酒を一二杯ぐいッと咽で呑ませてもらいやしたが、そのうめえノなんのたァなかったネ。麦酒ハ青麗茶屋にかぎるノゥ。
 いまゝぢァ車だったンで呑みてえと思っても、さふハならずの辛抱我慢。そいつが徒(かち)の身になりァ勝手気まゞの呑み身分。こいつもうれしい一つでござんす。
 江戸の風も師走にへえって冷たく感じるけふこの比(頃)。さぞお山は寒かろふト按じておりやす。風邪など召さず、雪にも負けず、八ツ颪(おろし)の寒晒しにもならねへふやに元気で過ごしておくんなせへ。
 ほん文ィありがたふおざりィやした。礼を申しやすゼ。また、投げ込んでおくんなせえナ、うれしゅうござんしたヨ。

 喜の字

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