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2007年5月 4日 (金)

清櫻若葉蒲焼(むすめざくらわかばのかばやき)

 櫻々と世間がお騒ぎになる櫻ァ、ありァおゑど(江戸)ハ豊島郡(としまごほり)染井村のなんとかッてェ植木職人が公方様のじでへ(時代)の終りから薩長天下にこの世がなる比(頃)にかけて、交わりでこせえたしろもん(代物)だッて言ふぢャござんせンかい。てえことは本居ハ宣長先生がのたもうた、花は櫻木人ハ武士ッてえあの櫻ァ当然、いま世間が浮かれて囃す染井吉野ぢャござんせんゼ。そいつァ山桜だ。葉が先に出てその葉陰でそっと跡(後)から花が控えめに咲く。鼻より歯が前に出るンで出ッ歯のこたァ山櫻なんて罵ったりしやすが、そんなこたァ別として、花は櫻木とはその控えめに咲いて控えめに散ってゆくさまがなんとも奥床しくていゝぢャござんせんかいッてことでお誉めになったンだとあっしァ思いやすヨ。それに比べりァ染井吉野ハやたらと張ったり利き過ぎる。パッと一木全部が花になり吹雪のように散り果てる。この潔さァ死に際にたとえて、一億総玉砕なんて言ひやがって、戦争へ駆り立てたのヨ。日本中のがっこ(学校)の庭に植えて煽りやして、みんな軍国少年少女に仕立てあげちまったわけだ。どうしようもねへ魂胆ぢァねへかい。
 マあっしァこんなご託偉そうに言へる聖人ぢァねへから、そろ\/おまんまの噺(はなし)にへえりやしょう。あっしンとこの山桜の葉ァまだ若葉なんでちいせへ。デそれを三枚ほどちぎって来て、筒形の器の底に敷きやす。そいで飯ィ中程ぐれえ盛り、その上に出来合いの蒲焼を小指ほどの太さに刻んで散らし、また飯ィ盛り込みやす。天辺にァ半身の蒲焼を載せ、ぜんてへ(全体)タレをかけまわすッて具合ヨ。こうしている間に蒸器の湯気もう\/と立てゝおいて、そけえ(そこへ)蒲焼載せた器を仕込みやす。跡ァ一刻(いっこく)の余も待つだけ。なんの造作もござんせん。一刻たァ今の西洋時間で言やア、ものゝ十五分ほど。この時間のこたァ時代考証と枕絵なんぞに滅法界くわしい林美一の旦那がじでへ(時代)風俗事典てへ書物に書いておいでだ。いまの時間で約二時間と言ふのハ一時(いっとき)と呼び、一刻は十四分とネ。
 さて蒸し上がったそいつに山椒の粉ァ振り、頬張るッてわけだ。出来合いの蒲焼たァ思へねえふんわりヨ。まるでうめえ雲ォ口に入れた案配だぜ。タレもひつこさが消えて、奥床しい。次第に喰ってゆくと、やがて器の半ばで櫃(ひつ)まぶしになるッて寸法ヨ。タレの染みた飯と刻んだ蒲焼が混ざりあい、豪勢な旨味サ。その旨味の底から、ふんわり立ちのぼるえも言はれぬ香りァどうだ。こいつが櫻の葉の仕掛けヨ。なんとも気高い品の佳さ。蒲の焼喰ってるたァ思えねへくれえヨ。極楽\/。
 しかしなんだネ、葉がわけえ(若い)から香りもほのかサ。真夏になって葉ッぱも年増になった比がいっち(一番)香りの盛んにりやしょう。また夏の盛りにこいつヲ楽しむことにいたしやしょう。

附(つけた)り
塩漬けの櫻の葉でやるのも、上々吉。そいつヲ焼物の器ぢャなくほんもんの蒸籠でやったら極付上々吉。ほっぺた落ちるゼ。

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