本日極上々大吉(けふハとくべついゝひだぜ)
あっしが巣ゥくってる処(とこ)ハいまぢやァ東京面しちやァゐるが、鳥渡(ちょいと)めえまぢやァご府内朱引の外の又外、大江戸絵図にも描(か)かれねへ大田舎。それが何処ォどう間違ったか、戦後焼け太りの俄(にわか)景気の引きずりで、雨後のたけのこ安普請、いつのまにやら野ッ原畑つぶしあット言ふ間の町トなり、全国津々浦々野々山々から一旗あげか締め出し喰ったか、三々五々の吹き溜まり。町暮らしの仕来り気遣い、なんも知らねえ鄙育ちが大手を振って歩く奴町。まるで江戸の初めェ見るやふヨ。
駅前といっても火除けの広小路一つなく、細い路にむりやりこせえた狭歩道。人二人のすれ違いにも、気ィ遣う幅のなさ。そんな小道を自転車が、黙って脇をすり抜けて、そのあぶねへッたらありやしねへ。たまにやァ気のきいたつもりかチリリンと、人さまどけるにベル鳴らす横着者の小憎らし。町暮らしになれたもんなら、鳥渡(ちょいと)すいません脇ィ通らしてもらい升(ます)の一声ぐれへかけるが礼儀。そんな気のきいたやつァ一人としてゐやァしねェのがいつものこと。あきらめ気分で歩いてゐたら、「モシすいませんノか細いお声。はてなんぢやろト振り返りやァ、まだうら若いおッかさん、こどもヲ 自転車に乗せてすぐ後でにっこりの微笑み。「オウこいつは気がつきやせんで申しわけねへトこっちの方が身ィ引いてあやまり一言。こうしたもんヨ。うれしいねへ。若いけど心得のあるお方、町ッ子だヨ。脇ィ通るに声をかけてくれた人はいまのいまゝで一人としてゐねへ。あんたさんが初めて、ありがとよ、うれしいねえ。ト思わずこっちから礼を言っちまったゼ。そしたらあちらさんもにっこり微笑んで軽やかに走り去っていきやした。あのおッかさんなら、お子も誰に後指さゝれることもねへ立派な町ッ子に育ちやしよう。



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